「カリスマ」と呼ばれたゴーン氏を失った日産はどうなるのか。経営コンサルタントの小宮一慶氏は「日産の経営陣は『ゴーン憎し、ゴーン怖し』という感情から動いたように思われますが、そこには顧客目線がありません。今後ルノーは、ゴーン氏よりもっとすごい経営者を送りこむ可能性があります。日産の経営陣にとって都合のいい展開になるとは限らない」と指摘する――。
写真=Abaca/アフロ

衝撃的なクーデターを2つに分けて考える

ルノーや日産、三菱自動車のトップだったカルロス・ゴーン氏の逮捕に衝撃を受けた方は少なくないと思います。私もその一人です。危機にあった日産を立て直し、名経営者の名をほしいままにした人物ですから、そのインパクトは特別でした。

私は、この事件を大きく2つに分けて考えなければならないと思っています。

ひとつは、カルロス・ゴーン氏自身の犯罪の問題。もうひとつは、日産や三菱自動車とルノーの今後の関係です。前者は世界的な経営者に関わることですので、マスコミの注目度が高いですが、私は後者のほうが重要だと思っています。

報道をみる限り、日産のルノー支配に対する反発が、ゴーン氏への「クーデター」を起こしたことは間違いないようです。しかし、だからと言って、ルノーの日産への支配が緩むかというと私は決してそうはならないだろうと思っています。クーデターを起こしたものの、結果的に日産で働く人や、日産の株主のためにならないのではないかと懸念しているのです。

ゴーン氏の犯罪の立証は困難が予想される

まず、ゴーン氏の犯罪について見てみましょう。ポイントは3つあります。

ひとつは、自身の給与を少なく有価証券報告書に記載していたという容疑です。退職後にもらう予定だった分を有価総研報告書に記載していなかったのです。一義的には有価証券報告書の虚偽記載の責任は法人である日産やそれを実際に行った人にありますが、ゴーン氏や側近が指示していたということのようです。

退職後にもらう予定の金額を記載しないことが虚偽記載になるかどうか、そして、それをゴーン氏が指示していたかどうかということが争点になります。報道によれば、有価証券報告書についての主務官庁である金融庁にゴーン氏側は記載の必要性について確認していたということですが、そのあたりのことも含めて、立件できるかどうかが争点です。

ゴーン氏側は、元東京地検特捜部長を弁護人としました。地検特捜部の手の内を知り尽くした弁護人と地検特捜部との対決となるわけですが、今後の成り行きが注目点です。

2つ目は、ゴーン氏の出身地のブラジルや国籍を持つレバノンなどに豪華マンションを買わせていたということです。オランダに設立した法人に対して60億円出資させていたというものです。これが背任行為にあたるかどうかは微妙だと私は思っています。日産はそのオランダ法人に直接あるいは子会社を通じて出資したわけです。それ自体、違法性はないでしょう。そして、そのオランダ法人が、レバノンやブラジルに高級マンションを買ったわけです。出資金という資産が、マンションという資産に変わっただけの話です。

もちろん、そのマンションをゴーン氏が私的に使用していたことは、経営者として倫理的には当然非難されるべきことですが、背任行為を立件できるかどうかは微妙なところです。また、オランダ法人の行為に対して、特捜部の捜査がどこまでできるのか、さらには裁判管轄の問題もあると思います。このことは、ゴーン氏の姉へのアドバイザリー契約についても同様の懸念があります。