そうして欧米大手メディアがサウジの暗部に見て見ぬふりをしていたため、多くの企業もまた、金満サウジが巨額のマネーをチラつかせながら描くバラ色の未来ばかりに目を奪われてきたが、サウジ・リスクに対する認識に甘い面があったことは否めないであろう。
ムハンマド皇太子を「開明的な指導者」と持ち上げてきた
サウジの政治的不安定さを示すトラブルは、1年ほど前にもあった。17年6月王位継承者のナーイフ皇太子がサルマン国王によって解任され、代わって実子のムハンマド皇太子が新たな王位継承者として完全に権力を掌握したのである。この解任劇のポイントは、ナーイフ皇太子は米国のエスタブリッシュメント層(反トランプ派)と近く、ムハンマド皇太子はトランプ大統領と近いという点だ。
当初、欧米の大手メディアの一部は、女性の自動車運転や映画館の営業を認めたという程度のことで、このムハンマド皇太子をして「開明的な指導者」などと持ち上げていたが、ムハンマド皇太子はその後、自分の政敵である王族や富豪らを粛清。さらにはイランが支援するヒズボラと接近したレバノンのハリリ首相の身柄を、同首相が自国を訪問していた最中に拘束し、強制的に「辞任宣言」を出させるという行動に出た。
また今年の5月から8月には、世界的に著名な女性人権活動家らを立て続けに拘束してカナダとの外交関係を極度に悪化させたほか、イランに支援されたフーシ派が勢力を拡大するイエメンを海上封鎖し、800万人以上を飢餓状態に陥れている。
そんな政権が、自らに批判的なジャーナリストを1人殺害したことなど、驚くに当たらない。ただし今回は場所が悪かった。現場となったトルコはサウジと対立関係にあるからだ。
ムハンマド政権は、諸外国の圧力に反発し、「世界経済に影響を及ぼす強い対抗措置の発動」に言及した。つまり、原油価格高騰を引き起こして世界経済をめちゃくちゃにしてやるという恫喝である。それだけハンマド政権は追い詰められているのであろう。
殺害されたカショギ氏の「闇の経歴」とは
一方、殺害されたカショギ氏も「ただのジャーナリスト」ではない。欧米メディアの多くは、欧米的民主主義や自由を愛する「穏健派」のように報じたが、素顔はもっと複雑だ。
彼のおじ、アドナン・カショギ氏は、かつてロッキード事件やイラン・コントラ事件などにも深く絡んだ世界最大の武器商人だ。またジャマル・カショギ氏自身も、かつてはサウジ政府の中枢にいた。