商工会議所が手がけた「ヒット商品」

もちろん、干しいもを手がけるのは同社だけではない。実は、ひたちなか商工会議所(以下、会議所)はアイデア豊富な団体として知られる。その会議所主導で開発されたヒット商品に「ほっしぃ~も」というパイ菓子がある。2010年に発売し、いまでは年間約160万個も売り上げる。もともとは会議所で「市の銘菓をつくろう」と企画された商品だという。

「ほっしぃ~も」(写真=ひたちなか商工会議所)

だが、お菓子の開発は専門家の知見が必要だ。そこで同市内の本店を含めて県内に11店を構える「お菓子のきくち」(菊池雅人社長)の協力を仰いだ。地元の菓子組合の組合長でもあった菊地氏の試行錯誤により、干しいもの食感を生かし、余計な加工をしない商品が約半年後に完成。翌年に発生した東日本大震災で一時消費が低迷する時期があったが、現在は人気商品としての地位を確立した。

ひたちなか市の玄関口・JR勝田駅内にあるコンビニには、干しいも関連商品がずらりと並ぶ。そのなかでも「ほっしぃ~も」はひときわ目立っている。

一方、幸田商店も県都・水戸市の玄関口であるJR水戸駅の駅ビル「エクセルみなみ」に直営店舗を持つ。店舗面積3坪の小さな店だが、「地物・手作り・健康志向」の土産品として訴求した結果、年間約6000万円の売り上げを持つ人気店に成長した。

ご当地企業が本気で手がける→地元特産としてのヒット商品となる→注目度がさらに上がる、という好循環となったのだ。

「高齢化」や「中国産商品」が課題

ただし、ひたちなかの干しいも業界にも課題は残る。

たとえば製造工程の6割は「サツマイモの皮むき作業」が占めている。自動皮むき機も開発されているが、へこみ部分の皮むきなどは機械ではむずかしく、完成度は人がすぐれているという。だが作業担当者は高齢化が進んでいる。いつまでも頼ることはできない。

中国からの「輸入干しいも」の存在も無視できない。かつては茨城産の4分の1程度という低価格や一定の品質が評価され、2004年には1万トンを超える輸入量だったが、国内産食品の安心・安全への評価が高まり、近年は中国産の輸入量も減ったという。最新の中国産の数字は発表されていないが、業界関係者の推計では2017年は約4000トンといわれる。現在では国内産食品の安心・安全への評価が高まり、輸入量は落ち着いているが、また輸入量が急増することがないとはいえない。

「ありモノ探し」と「ないモノづくり」

干しいもは単純なようにみえて、奥の深い食品だ。このため新規参入は簡単ではない。茨城県の干しいもがブランド化できたのも、「おいしさ」にこだわってきたからだろう。だが、それだけで生き残れるほど甘くはない。

スイーツなど派生商品の開発は、さらなる進化として大切だ。新たな魅力を訴求すれば、丸干しや平干しの伝統商品にも注目が集まる。これらは地場商品の可能性を広げる「ありモノ探し」と、今までにない商品を開発する「ないモノづくり」の取り組みだ。

新商品の開発は、社内や業界の若手・中堅社員のやる気にもつながる。健康イメージがあり、長年にわたる“喫食習慣”がある干しいもだからこそ、可能性も広がるのだ。

高井 尚之(たかい・なおゆき)
経済ジャーナリスト・経営コンサルタント
1962年名古屋市生まれ。日本実業出版社の編集者、花王情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画・執筆多数。近著に『20年続く人気カフェづくりの本』(プレジデント社)がある。
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