茨城ならではの「丸干し」

ひたちなか市で、干しいもの生産・加工を行う会社のひとつに「幸田商店」がある。戦後まもなく、現社長・鬼澤宏幸氏の父が創業した。当初は肥料問屋だったが、地域特産物の干しいもを扱うようになり業容を拡大。大学卒業後、食品商社の国分で食品流通業務に携わった後、家業に入社した宏幸氏が、前職の経験も生かして、主力の「べっ甲ほしいも」(品種は「いずみ」)をはじめ、さまざまな関連商品を企画する。

ひたちなか市の表玄関・JR勝田駅前の光景(撮影=高井尚之)

そのひとつが「べにはるかの干しいも」だ。べにはるか(紅はるか)は2010年に品種登録された新顔だが、甘いさつまいもブームをつくった「安納芋」に匹敵する甘さを持ちながら、すっきりした後味が特徴だ。商品には大きく分けて「丸干し」と「平干し」がある。

「平干し」(平切り)は全国的に知られる形で、ストーブの上やオーブントースターで加熱して食べた人も多いだろう。これに対して「丸干し」は、蒸した原料芋を丸々干したもの。平干しに比べて厚いので乾燥に要する期間が2~3倍かかる希少品だ。

筆者は、スポーツ大会の取材でひたちなか市を訪れた際、販売ブースで「海風ほしいも」を見かけて、同社に興味を持った。平干しの干しいもがサーフボードに似ているため、パッケージにはサーフボードのイラストが描かれている。購入してから「茨城おみやげ大賞2016」の「最高金賞」に選ばれたことを知った。

生産手法を進化させた「干しいも新工場」

2018年7月、幸田商店がひたちなか市に新設した工場の開所式があった。事業が拡大する国産干しいも製造センターの役割で、約2500平方メートルの建物内に冷凍庫、解凍庫、仕分けエリア、加工場、保管倉などを備える。

左:「べにはるかのほしいも」/右:「海風ほしいも」(画像提供=幸田商店)

開所式では、新工場の見学も実施された。この工場は、今年6月から法律で制度化された「HACCEP」(ハサップ。食品衛生管理の国際基準)に対応している。原材料の納入→選別→製品製造→出荷という作業の流れをエリアごとに分け、製造時の菌汚染や異物混入を防ぐという。

たとえば、干しいもの製造作業は「清潔区」、作業後の番重(薄型の運搬容器)洗浄作業などは「汚染区」となる。各現場には計量スピードを上げた機械、本体丸洗い可能な機械などが導入された一方で、アナログ面も残した。

「5S(整理、整頓、清潔、清掃、しつけ)の徹底」や「毎日指差呼称」の文字が、デジタル機械のすぐ横に貼られていたのが印象的だった。鬼澤氏は「機械任せにしない、ヒトの力が欠かせない」と説明する。本格稼働して2カ月たち、生産は順調だという。