【山中】はい。学生の面接で私が見ているのは、「実験が好きか」ということです。実験は失敗することがほとんどなんです。ですから、失敗することを含めて目の前の実験を楽しめる人でないと研究者は続きません。
実験で予想とは違う結果が出たときに、ただ失敗だと嘆くのではなく、実は面白いことが起こっているんじゃないかと思えるかどうか。予想とは違うという意味では失敗であっても、きちんと記録に残してのちに検証できるようにしておけるかどうか。
もし実験が嫌いだとか、失敗することがイヤだというなら、どれだけ頭がよくても、入試の成績がよくても、研究者には向いていません。客観的に評論する仕事は上手にできると思うのですが。
【柳井】まったく同感です。僕も頭のいい人が「評論家」になるのをどれだけ見てきたことか(笑)。
ビジネスとは実践です。毎日実践して、毎日失敗する。そうして新しい仕組みとか、新しい人の使い方とか、そういうことを自分で研究しながら自分でブラッシュアップする。それによって自分の地位もブラッシュアップして将来に向けて進んでいく。そういう気構えがないと、ビジネスはうまくいかないんですよ。
ほとんどの人が失敗を悲しいことだと考えますが、それは違います。僕は失敗するたびに、この失敗のなかには成功の芽があって、失敗はその芽を発見できるように僕に与えられたものじゃないかと考えます。山中さんがおっしゃったように、成功とは結果的には運かもしれない。しかし、失敗を本当に吟味して深く考えた人が成功するんだと思います。
さらに言うと、成功は失敗の原因になる。僕たちもフリースブームの後にガタッと業績が落ちたように「成功の復讐」を何度か経験しています。一直線に成長するのではなく、成功と失敗を繰り返して成長するんです。
【山中】失敗をどう考えるかですよね。ジュニアを教えているプロゴルファーから聞いたことがあります。その方によると、ミスショットをした後の反応で、伸びる子かどうかがわかるそうです。失敗すると、頭にきてクラブを投げつける子がいる一方で、失敗の原因を探るためにクラブヘッドを見てボールの当たりどころを調べたり、素振りをしてチェックをする子もいる。もちろん伸びるのは後者です。いい結果を得るには、「失敗の流儀」を身につけることが大事なのだと思います。