【山中】「人生が一瞬」というのはよくわかる考え方です。僕が研修医になったころ父が58歳で亡くなったので、自分もそれくらいまでしか生きられないんじゃないかと、ぼんやり思っていました。

40代で知り合った平尾誠二氏と山中氏は無二の親友に。著書『友情』に詳しい。(日刊スポーツ/AFLO=写真)

それより大きなショックだったのは、親友だった平尾誠二さん(元ラグビー日本代表)が2年前に53歳の若さで亡くなってしまったことです。大人になってからできた親友というのは格別です。それだけに、そういう相手を亡くすと本当にこたえます。

僕自身、10年後、20年後に生きているかどうかわかりません。そう思うと、先延ばしするのはやめて、いまできることにはとにかく手をつけようという思いがありますね。

【3】リーダーとは

【山中】変化について考えるとき、僕はある名門ゴルフコースを思い浮かべます。ゴルフ場は名門であればあるほど、メンバーの人たちから「変えるな」「そのままがいい」と言われます。だから変えないのがふつうですよね。でも、そのゴルフ場の支配人は、自らの手でコースの改善を繰り返していました。

名門と言われていても、現状に満足せず常に変わろうとする姿勢は尊敬に値します。そのコースに行くたびに、自分も負けずに変わらなくてはと思いました。もっとも、いまは支配人が代わってコースに変化がなくなってしまったんですが。

【柳井】その支配人の話はよくわかります。組織はリーダーしだいです。どんなに悪い条件のもとでも、リーダーしだいで状況を変えることはできるんです。ただ、厄介なのは、リーダーの人間性も変わってしまうことです。この人なら大丈夫と思っていても、地位や名誉を手にしたら舞い上がってしまうんでしょうね。

【山中】実は謙虚であり続けられるかどうかは、研究者にとっても大事なことなんです。研究が成功するかどうかはかなりの程度、運に左右されます。言ってみればじゃんけんと同じような部分もあって、すごい研究成果は、じゃんけんで偶然10連勝したようなものだと思っています。それだけなのに、「この人はじゃんけんの天才に違いない」とまわりが言い出す。すると本人もその気になって、しまいには『いかにしてじゃんけんに勝つか』という本まで出してしまう(笑)。というのは冗談ですが、それに近い状態に陥ることもあるんですよ。

【柳井】研究は1人や小チームでやることが多いから、そうした誤解が起こりやすいかもしれないですね。

【山中】はい。そういう懸念もありましたから、iPS細胞研究所を設立するときには、研究室間に壁がなく研究者が自由に意見交換できる「オープンラボ」というスタイルを採用しました。新しい挑戦をするといっても、アイデアがないと挑戦できないし、新しいアイデアは違う分野の人と話すことで生まれる場合が多いですから。