また、藤井には「丁寧に説明しすぎない」というこだわりもある。いまのテレビでは、すべてをわかりやすくしようとしすぎる傾向がある。なんでもわかりやすくしてしまうと、すでにみんなが知っていることしかテレビに出てこなくなり、テレビが刺激のない退屈なメディアとなってしまう。そうではなく、自分にはわからないけれども、なんとなくそういうものがあるのだなあ、という感じのものがテレビにあってもいいだろう、というのが藤井の考え方だ。

例えば、藤井は女優の松島トモ子を自分の番組で何度も起用している。松島はライオンに噛まれたことで有名な女優だ。松島がライオンに噛まれたという情報は、若い世代は知らないかもしれない。だからといって、松島を使うことを避けていたら、テレビは限られた狭い範囲のなかだけでキャスティングをすることになってしまう。そうなってはいけないと藤井は考えている。

だから、藤井のつくる番組には独特の大胆なキャスティングがある。『水曜日のダウンタウン』でも、「ミスターSASUKE」こと山田勝己など、ほかではあまり見かけないタレントを積極的に起用する。それが、この番組に圧倒的なオリジナリティを生んでいる。

膨大な情報を「サンプリング」する

藤井は学生時代にサークル活動も部活動もいっさいやらずに、ひたすら音楽、読書、映画、格闘技などの文化を吸収してきたという。いろいろな分野への幅広い知識と好奇心が、彼の手がける番組のカルチャー的な引き出しの多さにつながっている。

また、ヒップホップに造詣が深い藤井は、自分を「サンプリング世代」だと自負している。ヒップホップでは、ほかの音楽などに影響を受けて、それをアレンジしたり、楽曲のなかに組み込んだりして自分の作品をつくるのはよくあることだ。

藤井自身も、そのようなかたちで、膨大な量の情報のなかから自分なりのサンプリングをして番組をつくっている。それは、サブカルチャー的な情報の場合もあれば、過去の番組の企画や演出の場合もある。過去のテレビで見た企画を別の題材と組み合わせることで、新しい企画が生まれる。そのように、知っていることの掛け合わせで新しい企画を生み出している。