メンバーシップ型の企業組織のメリット

この日本型雇用システムの前提にあるのが、「メンバーシップ型」と呼ばれるものであり、欧米をはじめとした諸外国の「ジョブ型」と対比される。これらの概念は、労働政策・研究研修機構所長の濱口圭一郎氏により提唱されたものである。

濱口氏によるとメンバーシップ型は、初めに「人」ありきで、その「人」に仕事を当てはめる発想で人事管理や賃金管理を行う考え方であり、ジョブ型は逆に「仕事」をベースとし、それに合致した「人」を選んでそれに張り付けるやりかたをとる。

ジョブ型は「職務型」とも呼ばれる。あらかじめ仕事の内容、範囲、責任、権限などが明確になっていないと誰に任せればよいかが定まらないため、職務を詳細に分析・評価する職務評価結果に基づいて、序列や給与を決める「職務等級制度」に基づく人事や評価が行われる。この仕組みは1960年代にアメリカで急速に広がり、その後世界に広まった。

メリットが薄れて、デメリットが目立つように

一方、日本のとくに大企業の多くは、通常、社員一人ひとりの仕事の中身や範囲などをさほど厳密に定義せず、社員の潜在能力が企業の期待値に達しているかによって、社員の序列づけをおこない、処遇を行う方法である「職能資格制度」に基づく人事や評価が行われる傾向がある。もっとも、近年はその中間的な「役割等級制度」を導入する企業が少なくない。

もちろん、メンバーシップ型にももちろんメリットはある。職場の一体感が醸成されやすい、失業率が低い(とくに若年層)、業務の繁忙を組織内で平準化しやすい、解雇をせずに組織変革が容易なことなどである。高年齢層よりも若年層の方が常に人数の多い「人口ボーナス期」には、企業と日本経済双方の成長を図る効果的な仕組みとして機能してきた。

ところが、少子高齢化と人口減少の波を受け、若年層よりも高年齢層の方が常に人数の多い「人口オーナス期」に入り、これまでのメリットが薄れる中で、会社側の強い人事権が従業員のワーク・ライフ・バランスやキャリア自律を阻害する、非正規の社員が不公正な処遇を受ける、正社員は長時間労働になりがち、成長企業への人材流動が進まない、といったデメリットの方が目に付くようになってきた。