「同一労働同一賃金」を実現するには
官邸主導で進められつつある「働き方改革」の取り組みを見ていると、メンバーシップ型の組織からジョブ型の組織へ移行を促そうとしていると判断できる。
その典型が、「同一労働同一賃金の導入」である。現在、全雇用者の4割をも占める非正規雇用労働者と正社員との間には賃金などの処遇に大きな格差がある。説明がつく格差であればよいが、実態としては同じ業務を行っていても社員区分の違いが、賃金等の格差を生じている場合がみられる。このような格差の是正は古くから問題視されていたが、なかなか解消されなかった。
格差の解消、すなわち「同一労働同一賃金」を実現するには、正社員の働き方をジョブ型に転換しなくてはならない。なぜなら、メンバーシップ型では一人ひとりの仕事を明確に定義することは困難であり、仮に正社員と非正規社員との間に公正な処遇がなされていても、職務が明確に規定されていないため、企業が公正さを説明するのは難しいからである。
職業情報を総合的に提供する職業情報提供サイト(日本版O‐NET)を整備し、労働市場のマッチング機能を改善する取り組みも進められている。日本版O‐NETとは、米国労働省が2003年より運用している仕組みの日本版であり、さまざまな仕事の内容、求められる知識・能力・技術、平均年収といった職業情報を総合的に提供するサイトのことである。仕事の内容を明確にすることで、新規学卒者は「会社選び(就社)」から「仕事選び(就職)」に意識を転換させ、中途入社も行いやすくなることが期待される。
ジョブ型雇用システムを支える制度がない
では、働き方改革が目指すように、ジョブ型の雇用システムに移行すれば、メンバーシップ型の雇用システムが直面する問題を解決できるのだろうか。
ジョブ型の組織では、社員は自分のキャリアは自分で作ろうとする意識を持つ傾向がみられる。自分の仕事や役割が明確なため、周囲をおもんぱかって仕事が終わっても帰れないということはない。より自分の能力を活かせる場が社外に見つかれば、積極的に転職するため、人材の流動化が進む。非正規の社員であっても、社員並みの仕事をしていれば同等の処遇が得られる。ジョブ型の企業が増えれば、問題が改善する面は確かにある。
ただし、雇用システムの転換はそうたやすいことではない。事実、1950年代から1960年代にかけて経営側と政府は職務型による賃金制度である「職務給」を主張していたが、労働組合の反発などもあり1970年代以降に断念している。経済成長に伴い技術革新が継続的に行われ、業務の内容は時々刻々と変化する。ところがジョブ型の組織を維持するには、そのたびに職務定義書を作り直さなければならない。この手間も移行の障壁の一つになったと推察される。