今国会の目玉として政府が進めてきた「働き方改革法案」。法律は成立したが、期待されたような効果は薄そうだ。三菱総研の奥村隆一主任研究員は、「今回の改革により雇用システムがメンバーシップ型からジョブ型に転換する方向に向かう可能性が強まっているが、日本ではジョブ型が機能するための制度が未整備のため、『働き方改革』もうまくいかない可能性が高い」と指摘する――。(前編、全2回)

日本的な「働き方」を規定する4つの特徴

日本的な働き方は諸外国と異なっており、さまざまな問題があると認識されるようになって久しい。

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本人の望まない異動の辞令を受けてスキルや経験のない職務を任されたり、小さい子どもがいるにもかかわらず転居を伴う転勤を命じられたり、職場の仲間が仕事をしているので定時になっても帰りづらかったり……。これらは日本ではそう珍しいことではないが、諸外国からみれば、こうした慣行は奇異に映る。

日本的な雇用システムを特徴づける特徴としては、新卒一括採用方式、終身雇用制(長期継続雇用)、年功序列賃金体系、企業別組合の4点が挙げられる。これらすべてがそろっているのは世界を見渡してみても日本ぐらいである。そして、その4点セットの背景にある本質を一言でいえば、「メンバーシップ型」だろう。

「能力」ではなく「ポテンシャル」で採用する

メンバーシップ型の雇用システムとは、簡単に言えば職務や勤務地、労働時間などが限定されない雇用契約のことを言う。メンバーシップ型の雇用システムは主に大企業を中心に高度経済成長期に広まった。現在は、終身雇用も年功序列もだいぶ弱まったが、新卒一括採用は依然根強く続いている。極論すれば、日本の会社は大学等で得た能力やスキルが即、仕事につながるなどとは思っていない。「能力」ではなく「ポテンシャル」(伸びしろ)をみて新規学卒者を採用する、といわれるゆえんである。

新入社員の仕事のスキルや能力はOJT(On‐the‐Job Training)を中心に自社で育成するのが基本なので、社員が身につけるスキルや能力は企業特殊性の強いものばかりになる。そのため転職は進まず、外部労働市場は広がらない。若手の社員に投資する教育コストを回収することを考えれば、早く辞められたら困るので勤続年数は長くなる。

従業員の立場に立っても、入社したての頃は給料が低くても、勤続年数が上がるほど高くなるとなれば、定年まで勤めあげる方が得と考えるのが当然である。同じ業種であっても企業ごとにキャリアラダー(昇進のはしご)をはじめとした人事制度や雇用システム、教育システムが異なるから、企業を超えて労働者が団結しにくく、企業別の組合が作られる。

このように、4つの特徴はすべてつながり、日本独特の雇用システムを形作っているのである。