「在宅型医療病床」に転換し、数千万円の赤字を半年で黒字化
施設でありながら、在宅。そのメリットは大きい。訪問看護・介護の場合、時間や頻度などが細かく定められているが、ここでは看護師と介護士が常駐しているため、頻回に見回りを行い、気を配ってもらえる。夜間でも看護師・介護士がともに約4名ずつおり、緊急時には地域の提携クリニックから専門医も駆けつける安心な体制だ。
看護師が立場の違いを超えて介護士の仕事を手伝ったり、入浴時に看護師が同行したりするなど、独特のスタイルも採用。通常はベッド上での清拭が基本の人工呼吸器使用者も入浴が可能になり、「ここにきて初めて風呂に入れた」と、顔をほころばせる利用者も多い。
「医心館」を運営するアンビスは12年、経営困難に陥った医療法人の再建に携わったことがきっかけで設立された。病院の病床を「在宅型医療病床」に転換し、数千万円の赤字をわずか半年で黒字化した。
現在、名古屋や首都圏、東北圏を中心に“出店”を加速しているが、その手法は極めて合理的だ。
一から建物を造るのではなく、すでにある施設(その多くは経営不振に陥った施設)を居抜きで買い取り、「医心館」として再オープン。統一された「ブランドイメージ」はつくりにくいが、初期費用は圧倒的に抑えられる。そのコストを莫大な入居一時金や毎月の家賃で回収する必要もない。医師やケアマネージャーは地域医療と提携しアウトソーシング化することで、その分のコストも抑えられた。
介護業界で熾烈な争奪戦が繰り広げられる看護師・介護士獲得の課題も、「医心館」ではその独自のポリシーに共感し優秀な人材が集まってくるという。
現在、「医心館」で看護管理者として働く吉田さんは、病院・訪問看護・有料老人ホーム・特養と、さまざまな施設を経てきたベテラン看護師だ。これまでも、行き場所を失った高齢者を大勢看てきたことが今の職場に繋がっていると語る。
「病院では肺がん末期の方など何人も看てきました。最初は全力を尽くす医師も、手の施しようがなくなると家に帰そうとするんですよね。『え、この状態で?』と家族も驚きますが、それも当然のことで、目の前の本人は痛みで七転八倒しているわけです。この人をこのまま家に帰して家族はどうすればいいのか。