「超高齢・多死社会」での新たな希望となった

入退院を繰り返して最期に病院で亡くなる方もいます。家族は『ありがとうございました』と言ってくださいますが、立ち去る背中が全然『ありがとう』じゃないんです。むしろ『ひどい目に遭わされた』が本心なはずで、こちらも最後まで責任を持って看られなかった申し訳なさで心苦しかったです」

その後、「終の棲み処」や「どんな状態でも受け入れます」という施設を転々としてきたものの、「結局、医療依存度の高い高齢者はできるだけ断りたい。それが多くの施設の本音なんです。人員配置や設備問題、採算性など理由は多々ありますが、働く側にとってはやるせなさが付きまといます。同じように悩んできた看護師が、ここには全国から集まってきているんです」。

地域連携担当の看護師、八島さんもその1人だ。「その人らしい人生を最期まで叶えさせてあげたい」という思いでここにたどり着いた。

「60代で末期の食道がんで入居された方がいました。最初は生きる気力も失った様子でしたが、体力的には食欲もあり、『食べられさえすれば、元気になれる気がするんだよ』とご自分の口で食事をすることを強く望まれたんです。医師と相談し、本人にもリスクを承知してもらったうえで、3度の食事と少量のお酒も楽しまれました。これは、病院ではまずできないことですよね。在宅ならではの自由度がここにはあるんです。『ダメ』と言うのは簡単ですが、本人が強く希望されることは、できる限り叶えてさしあげたい。それが1人の人生の最期に関わらせていただく者の役目だと思うんです」

施設型・在宅型をハイブリッドで取り入れる「医心館」。最初は一種の「社会的実験だった」とアンビスHD代表取締役社長の柴原慶一氏は語る。介護や医療といった福祉の世界で、補助金などに頼ることなく、仕組みをイノベートすることで社会課題を解決する。利用者に負担をかけることなく、利益を出すことは可能なはずだ。それが実現することを「医心館」は証明した。

今後、同様のサービス、あるいは新たなビジネスの展開を模索するライバルは増えていくだろう。そうした介護業界での新たな市場創出は、単に利用者にとっての「終の棲み処」の選択肢が増えるというだけでなく、超高齢・多死社会での新たな希望に繋がるはずだ。

(撮影=小倉和徳)
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