雇用機会も十分とはいえない。17年第4四半期で見ると、全体の失業率は約2%とさほど高くないが、若年層の失業率は7.3%。ベトナム全体の失業者数約111万人のほぼ半分を15歳から24歳までの若年層が占める。大卒の失業者も約22万人に達し、多くの人が大学を出ても働く場所がないという状況だ。こうした背景から、低所得層や失業者が海外へ職を求める。
ベトナム人労働者のおもな受け入れ先は、台湾、日本、韓国、マレーシアである。平均月額賃金は、ベトナム労働省の資料(14年)によれば、マレーシア300ドル、台湾650ドル、韓国1000ドル、日本1400ドルと差が大きい。マレーシアや台湾は、派遣労働者が負担する費用が比較的低く、渡航しやすい半面、労働災害や賃金不払いなどの問題も多い。韓国は10年ほど前、国ごとの受け入れ枠を定めるクオータ制のもとで多くのベトナム人労働者を受け入れていたが、失踪者が多いため、いったん受け入れを停止してしまった(現在は再開している)。こうした事情からも、日本への出稼ぎを希望するベトナム人は多い。
学業より労働を優先する留学生も?
一方、受け入れ側の日本の状況はどうだろうか。
日本では、少子高齢化に伴う労働力人口の減少によって、労働力不足が問題となっている。とくに運輸、建設、小売りなどの非製造業では危機感が強い。このような状況のなか、政府は14年の産業競争力会議で、生産労働人口の減少を補うために、幅広い分野で外国人労働者の受け入れを進めていく方針を打ち出した。この方針に従い、16年に外国人技能実習制度が改正され、実習期間が最長3年から5年になり、対象職種に介護が加えられるなど、制度の拡充が進んだ。
さらに、20年の東京オリンピック・パラリンピック関連の建設需要に対応するため、15年から20年度までの時限的措置として、「外国人建設就労者受入事業」も実施されている。これは、建設分野の技能実習を満了した技能実習生が外国人建設労働者として最大3年間建設業務に従事できるというものだ。このように、外国人労働者を受け入れる日本の門戸は拡大している。
また、日本へ来る留学生は、週28時間までのアルバイトが認められており、長期休暇中は1日8時間まで働くことができる。黙って掛け持ちすれば、実際にはそれ以上の労働も可能だ。これは他国と比べるとかなり働きやすい条件で、日本への留学は「働きながら学べる」というイメージが強い。学業より労働を目的に日本にやって来る「留学生」も少なくないといわれる。
これまで日本での外国人労働力といえば中国人が大半を占め、留学生も中国人の割合が高かった。だが母国の順調な経済発展に伴って、日本へ働きに来る中国人の数は減少傾向にある。その穴を埋めるために期待されているのがベトナム人で、日本語学校や専門学校などはベトナムに積極的に営業をかけているという話も聞く。こうして両国の事情が重なった結果、ベトナム人労働者が増えているものと推察される。