動画広告は、目に入っただけで「見た」とカウントされていた

ならば、徹底的にターゲットを絞った広告活動なら確かな効果が得られるのだろうか。リットソンによれば、それも難しいらしい。その理由は、フェイスブックで成果を上げている広告の「インプレッション」なるものと大いに関係がある。たとえば、フェイスブック上ですごい動画広告を制作・掲載する場合を考えてみたい。フェイスブック上の動画表示エリアのうち、ほんの数ミリだけでも利用者の目に入っただけで、実際にはコンテンツ自体を視聴しなかったとしても、フェイスブックは閲覧したと判断して広告主に料金を請求する。

話はそれだけで収まらない。フェイスブック上にある動画のおよそ85%は音声が消音の状態で再生されていて、音声を耳にしている利用者は15%にとどまっている。現在、フェイスブック側でもこの問題の対応に動いているということだが、それでもバカらしいことに、音声オフでも動画がたった3秒再生されるだけで、1回視聴されたとカウントして、広告主は広告料金を払わされるのだ。

「投資効果がない」ことに気づいたP&G

こうした事実を受け、フェイスブック戦略自体を再考するブランドも現れている。プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)では、2016年にターゲット広告の重点利用から手を引いた。さまざまなデジタル広告と比べて投資効果がないと気づいたからだ。P&Gに限らず、ブランド各社は、この新しいメディアが明らかに普及している事実と、最終的な費用対効果という現実とにどう折り合いをつればいいのか苦心していた。

思うにフェイスブックは現代版のテレビ民放キー局になっただけのような気がする。視聴者はタダでサービスやコンテンツを楽しむかわりに広告を見せられる。では何も変わっていないのかと言えば、新しい部分もある。今、消費者の反撃が始まっているのだ。たとえば、イギリスでは成人の22%、アメリカではインターネットユーザーの10%がアドブロッカーと呼ばれるオンライン広告阻止ソフトを使っている。このためオンライン広告を出している広告主とアドブロッカー開発元は常に火花を散らし合っている。

このいたちごっこは一種異様な様相を呈している。2016年8月、フェイスブックは、ユーザーがアドブロッカーを使っていても、強制的に広告を表示する対策を編み出したと発表した。要は、ユーザーが好むと好まざるとにかかわらず、ニュースフィードに広告を無理やり押し込みますよということだ。発表からわずか48時間後には、少なくともアドブロッカー開発元1社がすでにフェイスブックの“アドブロッカー・ブロッカー”の迂回策を見つけ出していた。当然、これに対してフェイスブックも“アドブロッカー・ブロッカー・ブロッカー”を阻止するブロッカー開発に動き出した。そもそも消費者は広告が嫌いだ。これまではそれに対して何もできることはなかったが、今は広告に対抗する力も技術もある点が昔と違うのだ。

飲料大手のペプシコ社長、ブラッド・ジェイクマンは、「デジタル・マーケティング」はおろか、「広告」という言葉も忘れるべきだと言ってはばからない。現に、広告という考え方自体、人々が目にしたくないもので世の中を「汚す」行為を前提としているとジェイクマンは言い切る。特にジェイクマンが槍玉にあげているのがプレロール広告である。動画本編の前に流れる30秒広告だ。ジェイクマン自身、人生のかなりの時間をこの広告に奪われているのだそうだ。先ごろ開催された会議の席上、こんなふうに語っている。