表舞台から退場させられた2つの理由

【片山】昔の東映ヤクザ映画みたいな話ですね。新興ヤクザや愚連隊は挨拶が足りないとすぐ潰される(笑)。

通貨発行権と挨拶不足で、堀江たちは表舞台から退場させられてしまった。堀江は06年1月に、村上は6月に逮捕された。その結果、金融資本主義という新時代の経験が不十分なまま、日本は次の時代に向かわざるをえなくなった。

【佐藤】村上も堀江も逮捕されましたが、二人には決定的な違いがありました。村上は一審でインサイダー取引で実刑を言い渡されたあと、NPOへの協力やボランティア活動にいそしんで国家の温情にすがった。

【片山】国家権力の恐ろしさを知っていたんですね。

【佐藤】村上はもともと通産官僚でしたからね。

一方の堀江はモヒカンで出頭して国家権力を挑発した。彼は特に厳しいと言われる須坂(長野刑務所)に収監された。須坂には現役のヤクザもいる。夏は気温36~37度で、冬はマイナス。もちろん冷暖房はなし。彼の公判態度を見て国家の裁量で重い懲罰を加えたわけです。

余計なことをしなければ、栃木の喜連川社会復帰促進センターに収監されたはずなんですよ。労働大臣の村上正邦、防衛官僚の守屋武昌、大王製紙の井川意高、そして鈴木宗男。みんな喜連川社会復帰促進センターです。私ももしかしたら収監されるかもしれないと思って調べていたんです(笑)。

【片山】いずれにせよ、堀江の存在は、小泉政権下でレッセフェール――自由放任主義的な方向に向かう社会の象徴のように感じます。同時に、国家が個人を守るという意識がどんどん希薄になっていきました。

佐藤 優(さとう・まさる)
作家
1960年、東京都生まれ。1985年、同志社大学大学院神学研究科修了の後、外務省入省。在英日本国大使館、在ロシア連邦日本国大使館などを経て、外務本省国際情報局分析第一課に勤務。2002年5月、背任と偽計業務妨害容疑で逮捕。2005年2月執行猶予付き有罪判決を受けた。主な著書に『国家の罠―外務省のラスプーチンと呼ばれて』(毎日出版文化賞特別賞)、『自壊する帝国』(新潮ドキュメント賞、大宅賞)などがある。
片山 杜秀(かたやま・もりひで)
慶應義塾大学法学部教授
1963年、宮城県生まれ。思想史研究者。慶應義塾大学法学部教授。慶應義塾大学大学院法学研究科後期博士課程単位取得退学。専攻は近代政治思想史、政治文化論。音楽評論家としても定評がある。著書に『音盤考現学』『音盤博物誌』(この2冊で吉田秀和賞、サントリー学芸賞)、『未完のファシズム―「持たざる国」日本の運命』などがある。
(写真=時事通信フォト)
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