慶應義塾大学法学部教授の片山杜秀氏(左)と作家の佐藤優氏(右)

【片山】いちばん大切なものだから、筋を通して守りぬいて、守れないときは殉じます。この迫力がないと守れないものがあると思うのです。でも、いまの右派には筋を通さないで筋を変えても守れればいいんだろうという人や、あった方がいいと言いながら「横に置いて」おける、要するに本気度に疑いのあるホリエモン的な人たちが目立つ気がします。天皇制の認め方がぬるくて甘いゆえにかえって天皇制の基盤を危うくしていっている。味方の内実が危うくなっているということ。こういうのが滅亡サインなんですよね。

で強く記憶しているのは、ライブドアの堀江貴文の近鉄バファローズ買収騒動です。私は三原脩監督時代からの近鉄ファンでして。生きているうちに一度でいいから日本シリーズで勝つのを楽しみにしていたのですが、その前に消滅してしまい、ただ呆然とするのみで。

佐藤さんはホリエモンこと堀江貴文をどのように評価していますか?

物言う株主が総会屋を一掃した

【佐藤】とても優れた人であることは間違いありませんが、彼は読み違いをした。それは、国家が絶対に許さない通貨発行権に触れたこと。彼はライブドア株をどんどん分割した。それを続ければ、ライブドア株はやがて貨幣の代わりとして使えるようになる。しかも株式と商品の交換は物々交換だから消費税がかからない。偽金作りをしているようなものだった。もしもやるのならビットコインのように誰が作ったか分からないように用意周到に事を運ぶべきだった。

【片山】冷戦以後、アメリカは金融資本主義を推し進めてきました。資本主義の最終段階と言われる金融資本主義という分野に日本でチャレンジしたのが、堀江や村上ファンドの村上世彰らベンチャー経営者だった。しかし国内で彼らは総会屋のようなネガティブな存在として見られた。

【佐藤】総会屋は彼らの登場でいなくなってしまいましたからね。それは「物言う株主」という言葉の流行に象徴されるように、みんなが総会屋になってしまったからです。そうなると職業的な総会屋は必要なくなります。

堀江のもう一つの失敗は日本で権力を握るおじいちゃんたちへの挨拶が足りなかったこと。長幼の序を重んじる日本では挨拶がとても重要なのに、そこが分かっていなかった。だから05年2月にはじまるニッポン放送株買収騒動ではフジテレビの日枝久(当時フジテレビジョン会長)が怒った。