平成史には、数多のキーマンが登場する。だが、これほど世間での評価が定まらない人物もいないだろう。時代の寵児としてもてはやされ、その後、塀の内側にまで墜ちた元ライブドア社長・堀江貴文氏、45歳。佐藤優氏と片山杜秀氏が、ライブドア社が始動した2002年にまでさかのぼり、稀代のトリックスターの正体を語り尽くす――。(第5回)

※本稿は、佐藤優、片山杜秀『平成史』(小学館)の第3章「小泉劇場、熱狂の果てに 平成12年→17年」の一部を再編集したものです。

ライブドア(当時)の粉飾決算事件で証券取引法(現金融商品取引法)違反に問われ、実刑が確定。東京高検へ出頭する直前、報道陣や支援者らに心境を語る堀江貴文元社長(中央)(写真=時事通信フォト)

ヒルズ族というニューリッチ

【片山】2002年は日韓ワールドカップがあったり、小泉訪朝があったり、平成史のなかでも印象深い年です。

【佐藤】私はその時期の社会の動きがよく分からないんです。

というのも、02年5月14日から03年10月8日まで「小菅ヒルズ」に勾留されて刑事裁判に追われていました。新聞も読めないうえ、接見も禁止されていた。途中から読めるようになった日刊スポーツで知った大ニュースが、電磁波が人体に有害だと主張するパナウェーブと、多摩川にあらわれたアゴヒゲアザラシのタマちゃん騒動でした。

【片山】パナウェーブは電磁波から身を守るために白装束を着ていた団体ですね。

【佐藤】そうです。檻の中では、不快な出来事が山ほどありましたが、タマちゃんは数少ない愉快なニュースでした。

私が檻の中から出た03年のベストセラーが『バカの壁』だった。最近はびこる優生学ブームの火付け役です。ちなみに16年に話題になった『言ってはいけない』も遺伝学や進化論の見地から年収や容姿、犯罪傾向が決まると書いた優生思想の本です。

【片山】この年には六本木ヒルズが建てられて世間を賑わせました。確かライブドアの堀江貴文ら六本木ヒルズの住人たちをヒルズ族、ニューリッチと呼んでいましたよね。IT産業で儲けた成功者たちは世間の憧れになった。格差が拡大する前で、努力すれば自分も豊かになれると思えた時期だったのでしょう。

日本のゲーテッドシティ

【佐藤】私には六本木ヒルズがゲーティッドシティに見えた。アメリカ郊外には治安を維持するために住民以外の出入りを制限する門で囲まれた町があります。あれが日本の場合は上に伸びていくのかと感じました。

【片山】永井荷風が暮らした麻布の丘の上に建つ偏奇館からは、低地に広がるスラム街が見渡せた。六本木ヒルズも同じ発想でしょう。森ビルは、低地を買って嵩上げして人工的な丘を造り、ヒルズと名付けた。東京の勾配を活かした閉鎖空間です。私もそこに封建思想というか、棲み分けの思想を感じます。

【佐藤】それに加えて六本木ヒルズの特徴は自家発電と地下水のくみ上げ装置。何かが起きれば、公共インフラに頼らずに生きていける。