しかし、同居すれば、一緒に買い物に行ってついお金を出してしまう、光熱費などを親が負担するなど、ずるずると援助をしてしまい、支出が膨らむという問題も起こりがちです。ふたつの世帯が別々に暮らせば、土地代も固定資産税もそれぞれでかかり、1つ屋根の下に暮らしたほうが生活費全体は抑えられますが、子はラクができても、親に負担が偏りがちなのです。

また、子と同居する場合は、相続の際の「もめごとリスク」も想定しておかなければなりません。ほかにも子がいると、同居の子世帯に対して「親にこれだけ払ってもらったはずだ」「孫の面倒を見てもらったはずだ」と異議を申し立て、相続がもめることが多いのです。

一方、「夫婦水入らず」の暮らしなら、生活費が自分たちのものだけに抑えられますし、孫のためにお金を使いすぎたりしないで済む、などのメリットがあります。別居を決めたとき駅近のマンションに転居していたりしなければ、介護つきマンションなどへ入居するにしても転居費用は1回で済みます。経済的には「夫婦水入らず」に軍配が上がる、といえるでしょう。

今の自宅に住み続ける、または終の棲家となりうるところ(家なり、施設なり)に1度だけ住み替える。それが経済的には合理性があり、それを適えるには同居ではなく、別居、というわけです。

老後の「住み替え」の落とし穴
(左)現役時代:郊外の一戸建て(中)65歳~:駅近マンション(右)80歳~:介護付き住宅、「2回目の転居」の費用を用意できない恐れあり!

▼喜びをとるか、お金をとるか、それが問題だ!

井戸美枝(いど・みえ)
社会保険労務士
ファイナンシャルプランナー、経済エッセイスト。神戸市生まれ。講演やテレビ、雑誌などを通じ、身近な経済問題をやさしく解説する語り口に定評がある。『100歳までお金に苦労しない 定年夫婦になる!』(近刊)など著書多数。
(構成=高橋晴美 写真=PIXTA、iStock.com)
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