受給総額のモトをとるには10年以上かかる
年金とは「保険」である。しかも、運用できる保険だというのが私の考えです。
ポイントは2つのルール、「繰り上げ受給」と「繰り下げ受給」です。本稿ではこれらの制度から、年金を賢く運用するための方法について見ていきましょう。
そもそも公的年金を受給できるのは、原則65歳ですが、受け取れる時期は60歳から75歳まで自由に選べます。しかし64歳より前に受け取る「繰り上げ受給」をすると、受給額が1カ月あたり0.4%減り、1年あたり4.8%ダウンします。
一方、66歳以降に受け取る「繰り下げ受給」をすると、1カ月あたり0.7%増えて、1年あたり8.4%アップします。
このように公的年金は、もらう時期を“遅らせれば遅らせる”ほど年金額はアップするため、なるべく繰り下げて年金を多くもらったほうがいい――。メディアでもよくこういわれますが、はたして本当にそうなのでしょうか。
国民年金は20歳から60歳まで保険料を支払いますが、そのモトをとろうとするとだいたい10年超、ざっくりいえば15年ほどかかります。たとえば、「繰り下げ受給」をして75歳から年金をもらい始めると、だいたい86歳以降にならないと総受給額が65歳開始額を上回りません。そうです、モトがとれないのです。その前にもしも命が尽きてしまえば、もらえるはずだった受給額をもらえないということです。
自分は何歳まで健康に働き続けられるのか
そう考えると、65歳で年金を繰り下げるかどうかは、そのときの健康次第で選択の価値は全く変わってきます。年金ほど、一人ひとりの健康状態が如実に影響を与えるものはない。そういっても過言ではないのです。
自分は健康で長生きできるか、できないか。
何歳ぐらいまで、日々働けるのか働けないのか。
60歳を過ぎたら、いったん立ち止まって考えたほうがいい。それで健康状態に不安を抱えている、そんなに長く働けないという人は、60歳から「繰り上げ受給」をしてもいいと思いますし、逆に健康に自信がある人は70歳でも、75歳でも繰り下げていいと思います。とにかくモトをとろうとしたら「10年以上かかる」ことを認識し、自分の健康状態と相談しながら受給開始年齢を決めるのが大切です。