名画『ハスラー』に学ぶ、逆転を呼ぶ姿勢

映画から得た教訓を紹介しよう。私は古い映画が好きで、そこからいろいろな教訓を得ている。

名作『ハスラー』の冒頭は、なかでもお気に入りのシーンだ。場所はニューヨークのビリヤード場。そこへ、当代随一とうたわれる達人、ミネソタ・ファッツ(ジャッキー・グリーソン)に挑戦するため、若きビリヤードの名手、エディ・フェルソン(ポール・ニューマン)がやってくる。店には、ビリヤード場の経営者で奸智にたけたバート・ゴードン(ジョージ・C・スコット)ほか、数名がいた。

試合が始まると、疾風(はやて)のエディというふたつ名を持つエディはすばらしいハスラーであることがわかる。ゲームをくり返し、夜が深くなるにつれ、エディが優位に立ち、ファッツは汗をかきはじめる。店にいた人たちも集まってくる。疾風のエディとそのマネージャーは勝利を確信。あと1歩でキングを倒せる、新しいキングに栄光あれ、と。

一方、負けを認めようと思ったファッツは救いを求めてバートのほうを見やるが、バートは「続けろ。そいつは負け犬だ」と言う。ギャンブラーなバートは疾風のエディに弱みがある、自信過剰でつけ込む隙があると感じたのだ。だが、ファッツももう限界のように見えた。

ファッツは洗面所に立つと顔と手を洗う。家に帰る用意をしているのだろう。店員に服を着せてもらっているのを見て、疾風のエディは勝利を確信し、満面の笑みになる。ところが、ファッツは両手を差しだすと汗止めのパウダーを手に振ってもらい、にっこり笑って「さぁ、始めようか(“Fast Eddie, let's play some pool”)」と言う。このあとは言わなくてもわかるだろう。エディをこてんぱんにやっつけるのだ。

厳しい会議や不愉快な事態、敵対的な記者会見、情け容赦のない連邦議会公聴会などに臨まなければならないとき、私は、準備の仕上げとして、洗面所に立って顔と手を洗い、鏡のなかの自分を見ながら、「さぁ、始めようか」とあの映画のセリフをつぶやくことにしている。かなわないことはあっても、あきらめはしない。陸軍士官にできないことはないのだ。

念のため最後に一言。この映画はポール・ニューマンが主人公だ。最後にファッツと再戦してたたきのめす。でも私は、この映画をそこまで観たことがない。