コスト削減アタマでは、なぜ利益が得られないか?
なぜ「最小の投資で最大の効果」を狙うことがダメなのか、突き詰めて考えてみましょう。
あなたが営業マンだったとします。コスト削減を第1に考えるなら、一切飛び込み営業などせずに、お得意様ばかりをルート営業すればいいわけです。交通費も労力もかからないですし、残業も減るので余計なコストは削減できます。しかしラクをした分、当然、営業成績は下がります。
次に「最大の利益を得るために、必要な最大投資を行う」というスタンスの営業を想定してみましょう。まずルート営業の成績をほとんど落とさずに、時間を作るために何ができるかを考えます。毎日回っていた訪問を1日おきにする、電話ですむことは電話ですます、受注システムを簡略化するなどして効率化を進めます。そして空いた時間を新規開拓に充てるのです。
コスト削減という言葉の怖いところは、手抜きを誘発する点にあります。「何もしないほうがマシ」という発想は、経営者にとっても社員にとっても命取りになります。
コストを削減して収益力を高める2つの手法
私が50億円の赤字を抱えていたニコン・エシロールで実行したコスト削減の手法は「総量規制」と「ゼロベース予算管理」です。同社はニコンとフランスのエシロール社が2000年に合弁で設立したメガネレンズメーカーです。
「総量規制」とは、各構成要素ごとに量を決めるのではなく、総量を上回らないように規制することで、製造費の削減に効果的です。人間は不思議なもので「30日間、ランチは毎日500円」と決められるより、「1万5000円でやりくりしなさい」と言われたほうが気持ちがラクになり、工夫する楽しみを感じます。つまり、現場の裁量に任せるほうが高いモチベーションを維持できるのです。
「ゼロベース予算管理」とはカーター元米大統領が考案した手法で、予算案を前年ベースで考えるのをやめて、1から各部門に予算を割り当てることです。年末の駆け込み工事のような予算確保のためだけのムダ使いが減るだけでなく、必要なものにはきちんと予算をつけるわけですから売り上げに影響を及ぼしません。
ニコン・エシロールではこの2つの方法で製造部門は20%、営業・一般部門で30%のコストを削減しました。
仕事の報酬は仕事。良い仕事をしたから次の仕事がやってくる
「仕事の報酬は仕事」という言葉は、私がまだ30代の初めに、ある外資系企業でプロダクトマネジャーとして、日々、仕事に追われていたときに上司から教えられたものです。
そのときは、ある食品関連のマーケティングを任されていました。プレゼンテーションも5回はやりましたが、まったく企画が通りません。
これが最後だと思い、徹夜をして必死になって考え、ようやく提案が承認されました。その商品はその後、大ヒットし、会社の売り上げにも大きく貢献しました。それからです、いろいろな仕事が私のところに舞い込んできたのは──
そんなときに上司に呼ばれ、「仕事の報酬は、仕事なのだ」と言われたのです。当たり前な、単純な言葉ですが、今でも心にずしりと残っています。あの人は良い人だとか、あの人は真面目だとか、あの人は頭が良いとか──。それだけで食っていけるほど、ビジネスは生易しくありません。良い仕事をしたから、そして売れるものを作り、会社に貢献できたからこそ、次の仕事がくるのです。
だからといって、仕事が舞い込むものではありません。あくまでも、「仕事の報酬は仕事」。
お客様や取引先、そして自社に大きく貢献し、利益を出したからこそ、次の仕事に恵まれる。
そして利益が出たから、自分や周りの人たちの生活も潤うのです。