S&P500企業の約35%はファミリー企業

創業者の家族や親族が株を所有、あるいは経営を担うファミリービジネスは、日本では「同族企業」と呼ばれ、ネガティブに捉えられる傾向があります。しかし、海外では、以前からファミリービジネスの業績の高さが注目されています。例えば、2003年に発表された研究では、アメリカの代表的な株価指数であるS&P500の企業の約35%がファミリー企業であり、ファミリー企業のパフォーマンスが非ファミリー企業よりも優れていることが明らかになっています。

サントリーHDは社長に創業家以外から新浪剛史氏(写真右)を起用した。(時事通信フォト=写真)

もちろん、すべてのファミリー企業が優れたパフォーマンスを発揮しているわけではありませんが、一般にファミリー企業には、非ファミリー企業と比べていくつかの利点があります。

まず挙げられるのが、所有と経営が一致していることです。「所有と経営の分離」は、近代企業のポイントとされてきました。そうすれば、経営の専門家に経営を任せることができ、複数の投資家から資金を調達することもできます。

しかし、実際には、株主のエージェント(代理人)である経営者は“雇われ経営者”になりやすく、互いの利害が一致しないために、株主の意向に沿わない行動を取るという問題が起こります。これによって発生する損失を「エージェンシーコスト」と言います。それを防ぐために、社外取締役の配置など、コーポレートガバナンスのルールが整備されてきました。

経営者が株主としてのインセンティブを持っている

それに対してファミリービジネスは、株主であるオーナーが経営者である場合が多く、そうでない場合も株主と経営者が比較的近い関係にあります。そのため、所有と経営の分離から生じるエージェンシーコストを軽減することができます。経営者が株主としてのインセンティブを持っているため、業績に連動して配当や株価の形で報酬が変化します。その点では、ファミリービジネスはコーポレートガバナンスが利きやすいと言えます。

この点において、日本の非ファミリー企業の場合、経営者は株を持っているとしても、その割合が小さいため、企業価値や株価を高めようという意欲も弱くなります。