老舗に見られる、いい家訓とは

2つ目は、経営者のモチベーションの強さです。創業者のモチベーションが強いのは当然としても、後を継いだ経営者にも、家族によって代々受け継がれてきた事業を、将来にわたり継続させたいという強いモチベーションが働きます。こうした経営者のモチベーションは、企業のパフォーマンスに大きな影響を与えます。

3つ目として、長期的な視点で経営がしやすいという特徴があります。先述の通り、事業の持続性が目的の1つになっていることが多く、経営者としての任期も長くできます。そのため、短期的な利益だけでなく、20年後や30年後を見据えた長期的な投資を可能にします。ファミリービジネスでも上場企業の場合には、ファミリー以外の株主に対する責任が出てきますが、それでも、短期的な利益を犠牲にしてでも長期的な利益を追いやすい傾向があります。一般的な上場企業の場合、経営者の任期が2~3年のケースが少なくありません。さらに、四半期ごとに業績が評価されるため、長期的な視点に立った経営はなかなか難しいでしょう。

4つ目は、特に老舗のファミリー企業に顕著ですが、「家訓」という形で、強いコーポレートカルチャーを持っている点です。そうした企業の価値観が、後の世代の経営者にとって非金銭的なインセンティブになっている面は強く、ガバナンスにおいても重要な役割を果たしているケースがあります。老舗ファミリー企業を調査した結果、家訓がいい経営に結びついていることがわかっています。

非ファミリー企業のパフォーマンスが低すぎる

ただし、経営環境は常に変化しますから、家訓はそうした変化に柔軟に対応できるものである必要があります。ある老舗のお菓子屋さんの家訓は「おいしい菓子をつくれ」というものでした。このように、自分たちが何によって社会に貢献していくのか、という本質を捉えつつも、具体的な中身については後の世代に委ねるような家訓がいいのかもしれません。

日本のファミリー企業の傾向として、創業者はもちろんですが、子孫の代が経営を受け継いだ後も、日本の非ファミリー企業よりもパフォーマンスがいいことが挙げられます。その理由は、日本のファミリー企業が取り立てていいわけではなく、非ファミリー企業のパフォーマンスが低すぎるためです。両者の差は、ガバナンスの違いにあります。ファミリー企業のガバナンスを強めている、業績に連動した報酬制度や強いコーポレートカルチャーなどは、非ファミリー企業が見習うべき点ではないかと思います。

一方で、ファミリービジネス特有の課題もあります。血縁者が後継者となる場合、必ずしも能力のある人が選抜されるわけではありません。また、ファミリーの利益を優先するといった、ファミリービジネス特有の不祥事が起きやすいのも事実です。後者については、経営の透明性を高めていくことが必要でしょう。海外の研究では、そうした不祥事を防ぐためのルールができている国のほうが、ファミリー企業のパフォーマンスがいいことが実証されています。