悩んでもしかたないことを悩むのは時間の浪費

悩むのは時間のムダ。そうわかっていながら悩んでしまうのは、脳のしくみに原因がある。私たちが不安や怒りを感じるのは、脳の大脳辺縁系という動物としての本能を司る部分だ。それらの感情は普段、脳の前頭葉という部分が抑制しているが、不安や怒りが大きいと対応できないこともある。割り切れない気持ちになるのは、「コントロールが難しい脳活動の問題なのだから、仕方ない」とまずは気楽に構えたほうがよい。

「仕事をするうえで何にストレスを感じているか」に対する複数回答。「人間関係」は永遠の悩みだ。

ビジネスマンに多い悩みの典型例は、「他人の思惑に振り回される」ではないだろうか。上司が何を考えているか、周囲が自分をどう評価しているか、あれこれ気を回さずにはいられない。

そんなときは、さっさと結論を出すべきだ。「たぶんこうだろう」と仮定して、それに沿って今できることをするか、もしくは何も考えずに放っておく。私が勧めたいのは、後者である。何もせずに、言われたことだけを淡々とこなし、時間とともにだんだんと全貌がわかってきたら、その時点で動けばいい。上司にどうすればいいか聞いても、考えが固まっていない場合が多いし、同僚に相談すれば、曲解された内容を関係者に漏らされるかもしれない。ヘタに思索したり行動したりしないのが一番である。

同様に、他人と自分を比較して一喜一憂するのも時間のムダだ。面白いもので、1学年でも年上の人が自分より仕事ができるのは気にならないが、同期や2~3年下の人間が優秀だと、内心穏やかではいられない。しかし気にしただけで自分の実力が向上することや他人の評価が変わることはないのだから、これもあれこれ考えないほうがいい。

心を穏やかにするには、「自分は全体のなかでどの程度か」をなるべく客観的に把握し、順位を自覚することだ。出身大学や語学力、折衝能力などを鑑みれば、自分がどのあたりに位置するかという見当はつく。身のほどをわきまえてしまえば、「自分は今、20人中12位にいる。1位の同期には敵わないが、11位の後輩なら何とか追い抜けるかもしれない」と冷静に考えられるようになる。プライドや向上心を捨てるわけではないし、同僚の活躍にいちいち心を乱されることもない。さらによいことに、このように「悟った」人間は、周囲からは自信ありげでクールに見えるので、かえって評価が上がるのだ。

もし、「自分は今、考えてもムダなことを考えているな」と気がついたら、すぐにその場を離れて違うことをするといい。たとえば外の空気を吸う、散歩に行く、運動する。特に運動をすると憂鬱な気分が改善されることは医学的にも証明されている。それでもダメなら、悩んでいることを紙に書いて整理してみるといい。小さな努力を続けていくうちに、「切り替えスイッチ」のようなものができてきて、一瞬で悩みの堂々巡りから抜け出せるようになるはずだ。

×:上司が何を考えているか、思惑を想像し、悶々とする
○:上司の思惑を勝手に仮定しつつ、何も考えずに放っておく

柿木 隆介(かきぎ・りゅうすけ)
自然科学研究機構生理学研究所教授・日本神経学会専門医
九州大学医学部卒業。ロンドン大学医学部などを経て、現職。著書に『脳にいいこと 悪いこと大全』(文響社)など。
(構成=長山清子 写真=iStock.com)
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