将来への不安や他人に対する劣等感にさいなまれてしまう、気分はどんどん落ち込んでしまいます。そんなマイナスの感情をプラスに変える方法はないのでしょうか。ベストセラー『気にしない練習』の著者で、元結不動密蔵院住職の名取芳彦さんに聞きました――。

※本稿は、「プレジデント ウーマン」(2018年4月号)の記事を再編集したものです。

▼不安

結婚や出産のこと、老後のこと、自分のキャリアのこと……、将来のことを考えただけで不安になってしまいます。


過去は「過ぎ去った」と書き、未来は「まだ来ない」と書く。だからこそ変化を楽しむ心を持ち、臨機応変に人生を楽しむべし。ただ、後悔しないために、「これをやろう」「これはやめよう」と思ったら、ちゃんと覚悟すること。
名取芳彦さん●元結不動密蔵院住職。大正大学を卒業後、英語教師を経て住職に。著書『気にしない練習』(三笠書房)がベストセラーに。

仏教では「マイナスの感情」の説明は明快です。人間には自分の「都合」があり、都合通りにならないとマイナスの感情が生まれます。

都合とは自分の事情のこと。たとえば朝出かけるときに「うわー、寒い」と眉間にしわが寄るのは、「もっと暖かければいいのに」という都合があって、それがかなわなかったから。あるいは、自分より仕事ができる人がいると心がざわつくのは、「自分のほうが他人より仕事ができたほうがよい」という自分の都合があるせいです。

このマイナスの感情を仏教では「苦」といいますが、苦は自分の都合があるのに自分の都合通りにならないことが根源です。一方、「悟り」というのはいつでも心が穏やかな状態のこと。つまり苦がなければ、心は限りなく穏やかな「悟り」に近づくのです。

人間にとっての「苦」をなくすための方法

人間にとっての「苦」をなくすための方法は2つあります。1つは都合をかなえてしまうというやり方。たとえば車や電子レンジを発明するなど、便利なものを生み出して都合をかなえるのです。喉が渇いたときは、水を飲んで満たせば苦はなくなる。これは西洋的な考え方です。

もう1つは、仏教の考え方で、都合そのものを減らすことで苦をなくす。たとえば、「Aがいい」ではなくて「BでもCでもいい」といった具合です。「これがいい」ではなく「これでもいい」と考えられるようになれば、心は穏やかになりますよ。