老後資金に不安を抱く人は多い。医師の和田秀樹さんは「そんなに心配することはないのに、というのが率直な意見だ。未来のためにと我慢するよりも、好きなことにお金を使ったほうがいい。後悔のない最期を迎えることができるかどうかは“動ける今”にかかっている」という――。

※本稿は、和田秀樹『女80歳の壁』(幻冬舎)の一部を再編集したものです。

妻を責める夫
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老後のための貯蓄は必要なのか

大金を 貯めても墓に 持ち込めぬ

「老後には2000万円以上の貯蓄が必要」というニュースを聞き、心配になった方も少なくないでしょう。

高齢者医療の現場にいる私からすると、いかにも役人がつくった机上きじょうの論理であり「そんなに心配することはないのに」と言いたいのです。

と言うのも、ある程度の年齢になると、お金はそれほど使わなくて済むようになるからです。さらに言うなら、要介護状態や認知症になったら、お金は使いたくても使えなくなる。これが現実なのです。

「寂しいことを言わないで」とお叱りが来そうですね。でも私は、みなさんを落ち込ませるために、こんな話をするのではありません。逆です。元気づけるために言っているのです。

お金は貯めるのではなく、使ってしまえ――。これが私の主張です。

貯蓄ゼロで生きていけるのか

仮に、やりたいことをして全財産使い切ったとしましょう。一文無しになったとしても、日本では生きていけます。「この国は幸齢者に冷たい」と言う人がいますが“野垂れ死に”させるような冷酷な国ではありません。生活保護で生活できるし、公的介護も受けられます。日本は福祉が保障されているのです。

極論ですが、次のふたつなら、あなたはどちらがいいですか?

①やりたいことを我慢して貯金をし、ある日、動けなくなる。
②やりたいことをとことんやって、ある日、動けなくなる。

私なら迷わず②を選びます。世界一周旅行も、ポルシェに乗る夢も“元気な今”ならかなえられます。

動けなくなってから「ああ、あのときに」と後悔するか。「ああ、満足な人生だった」と思うか?

それは“元気な今”にかかっているのです。

貯金がないと心配すれば、心は暗くなります。「いまあるお金を、どう楽しく使おうか」と考えたら元気が出てきます。それが長寿にもつながるのです。