ディープラーニングができるようになったAIは、他の分野で人間よりもうまく対処できるようになり、2030年ごろには、ほとんどの知的作業において人間のパフォーマンスを上回ると言われている。

「これまでは肉体労働のような単純労働しかできない人はダメ。特別なスキル、クリエーティブな発想を持つ人だけが生き残れると言われてきましたが、最近では、これまで頭がいい人がなる職業と言われてきた弁護士、トレーダー、医者といった高賃金の専門職が、まずAIに置き換わると予測されています」(鈴木氏)

2024年度に実用化を目指す、細胞を培養するロボット「まほろ」。(共同通信=写真)

AIやロボットが大量に出現して、世界の仕事が半分になったとしたら、我々の生活はどうなるのだろう。世界初の感情認識パーソナルロボットPepperの生みの親、林要氏はこう語る。

「ヒトは未来を想像することが比較的得意な生物です。未来を想像することは非常に難しく、AIでも簡単にはできません。それなのになぜヒトはできるのか。それは『決めつけ』をするからです。物事をフラットに捉え、未来を予測するのではなく、『これはこういうパターンだ』と当てはめ、バイアスのかかった予測の仕方をしているのです」

『ブレードランナー』『ターミネーター』『マトリックス』……SF映画で描かれる未来は暗い。それに共感する我々の脳とは?

「危なそうだと未来に不安を感じる人のほうが生き残りやすかったわけです。不安が必ずしも合理的でなくても、多くの人は未来に不安を覚える。特に見えないものには恐怖を感じます。でも、いったん触れると安心して、今度は逆に都合のいい方向に想像し始める。それが僕らの脳のシステムです。コールセンターの女性の声がきれいだと、美人だと思ってしまうように、脳は勝手にファンタジーを生み出すのです」(林氏)

大失業時代到来。日本はどうなる?

大きく出遅れていると言われている日本のAI開発。現状を鈴木氏はこう解説する。

「トヨタ、パナソニックといった日本を代表する企業の研究開発費は約5000億円。一方、グーグル、アマゾンといったアメリカのIT企業の場合は約2兆円です。トヨタやパナソニックは自動車、家電そのものの開発に大半を使いますから、AIへの開発投資は数百億円くらいでしょう。つまり、数百億円対2兆円と投資金額の規模が全く違うのです」

林氏も「今も日本の産業を引っ張っているのは高度経済成長期を牽引してきた企業です。しかし、基本的に大企業は新しいことをやるのには向かない」と言う。

なぜ向かないのか。成長した会社はどうしても失敗しないことに価値を置いてしまい、チャレンジが苦手になる。一足先に立ちゆかなくなったアメリカがITで成功したのはスタートアップのエコシステムを選択したからだ。つまり多産多死するたくさんのベンチャーの中から突き抜けて伸びてきた小さな会社を大企業が買収するというシステムである。

「それが大企業の新陳代謝にもなるわけです。日本に何が必要かというと、まずスタートアップにきちんとキャッシュが回ること。もう1つはM&Aをした新規事業を伸ばすのは、スタートアップの経験者ですから、失敗を恐れずに大企業は人を送り込むべきです。この2つができれば、新陳代謝が促され、日本の閉塞感も薄れていくはずです」(林氏)

AI開発で後れをとった日本に未来はないのか。そんなことはないと2人は言う。