夫の「監督就任」に猛反対した理由

駅伝ファンの間では、原監督がかつて中国電力の営業マンだったことはよく知られている。妻の美穂さんも、地元の優良企業である中国電力の社員と結婚したつもりでいた。ところが2003年、その夫が突然、母校でもない青山学院大学の、しかも3年契約の嘱託職員として、陸上競技部の長距離部門の監督になり、箱根駅伝出場を目指したい、と言い出した。当時、専業主婦だった美穂さんは「猛反対」したという。

「今の仕事はどうするの? 転勤暮らしが落ち着いて買ったばかりの家はどうなるの? そもそも、わたしの両親が結婚を許してくれた理由のひとつは、あなたが中国電力の社員で、中国地方から外への転勤がないからだったでしょう? 突っ込みどころ満載の夫の話に一つひとつ突っ込みながら、私は猛反対しました。3年契約、その後は成果次第という話を聞けば、なおさらです。ただ猛反対しながらも、このわがままな夫が折れるはずがなく、絶対に監督になるつもりなのだなとわかっていました」

折れるはずがない夫に、絶対に反対だと言い続けたのには訳がある。そうすることで、夫が意地になるのを見抜いていたのだ。

「反対されればされるほど、燃えるのが原晋という人なのです。ですから、私は思いきり反対をし、反対しつくしてから、最後の最後に、わたしのこれだけの反対を押し切るのだから、悔いのないようにしっかりやってほしいと伝えました」

原監督のような、情熱的な一匹狼タイプの人には、猛反対の末の応援、というサポートの仕方が有効なのだろう。

リーダーだけでは強くなれない。サポートする人の「支える力」があってはじめて組織、チームは強くなれる。原監督が「実は、彼女が監督の監督です」という寮母・美穂さんの「支える力」があっての4連覇だったのだ。

その原監督がひっぱり、寮母の美穂さんが支える青学は、すでに箱根5連覇に向けてスタートを切っている。

原 美穂(はら・みほ)
青山学院大学体育会陸上競技部町田寮寮母
1967年、広島県広島市生まれ。大学卒業後、証券会社入社。その後、中国電力に勤務していた、原晋氏と出会い、結婚。2004年、原晋氏が3年契約で青山学院大学陸上競技部長距離ブロック監督就任と同時に、住みなれた広島をはなれ、陸上競技部町田寮寮母になる。初代寮母として、ゼロから寮のルールづくり、選手のサポートを行う。初の著書に『フツ――の主婦が、弱かった青山学院大学陸上競技部の寮母になって箱根駅伝で常連校になるまでを支えた39の言葉』(アスコム)がある。
(編集協力=アスコム)
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