「苦しさの意味を理解しない子」は伸びない
原監督は就任当初、学生の自主性に期待しすぎるがあまり、練習メニューは提示するものの、その狙いや取り組み方にはさほど言及していなかったという。それがいつしか一部の学生を疑心暗鬼にさせていた。
また、原監督は青学のOBではなく、学生時代に箱根駅伝を走った選手でもなく、実業団の中国電力でもケガで引退に追い込まれ、営業マンとして働いていた。指導者としての実績も何も無かったのだ。そんな突然やってきた新人管理職の言うことを、素直に聞く人がいないのは当然だった。
「『なんでこんなことをやらされるんだ』『あんな練習に意味があるのか』。『こんなことをやって本当に箱根を走れるように強くなれるのか』……。こういった疑問を持つ子に対しては、『なんで』『意味があるのか』の部分に、しっかりした答えを示してあげることができれば、目的を理解し、真摯に取り組むようになる可能性が高いのではないか」
美穂さんはそう考え、原監督に丁寧な説明をするよう進言したという。
「乗り越えた先に何が待っているのか、イメージさせてあげることが指導者の大きな仕事だと思います。ただ理由や目的を伝えるだけでなく、そうすることで、あなたにとって、どんないいことがあるのかを理解するところまで、導いてあげるのです」
「いいから黙ってやれ」と頭ごなしに命じても、モチベーションを奪うだけだ。また、「こうすれば、こうなるからやれ」と答えを教えても、別の練習メニューの前ではまた立ち止まってしまう。自分で考えずに言われたことをただやっているからだ。
このような組織では指示待ちの人材ばかりになってしまう。若手が自分で答えをみつけるよう「自分で考える力」を育ててやることは、一見、手間がかかるようだが、より大きな成果を生み出す。