2018年の箱根駅伝は青山学院大学の4連覇で幕を閉じた。この偉業を導いた原晋監督が、「監督の監督」と呼ぶ人がいる。原監督の妻で、陸上競技部町田寮の寮母である原美穂さんだ。美穂さんは2017年末、初めての著書『フツ――の主婦が、弱かった青山学院大学陸上競技部の寮母になって箱根駅伝で常連校になるまでを支えた39の言葉』(アスコム)を上梓した。この本から、チームを強くする「声がけ」のポイントを美穂さんの言葉を交えて紹介しよう――。

「苦しさの意味を理解しない子」は伸びない

原監督は就任当初、学生の自主性に期待しすぎるがあまり、練習メニューは提示するものの、その狙いや取り組み方にはさほど言及していなかったという。それがいつしか一部の学生を疑心暗鬼にさせていた。

原美穂『フツ――の主婦が、弱かった青山学院大学陸上競技部の寮母になって箱根駅伝で常連校になるまでを支えた39の言葉』(アスコム)

また、原監督は青学のOBではなく、学生時代に箱根駅伝を走った選手でもなく、実業団の中国電力でもケガで引退に追い込まれ、営業マンとして働いていた。指導者としての実績も何も無かったのだ。そんな突然やってきた新人管理職の言うことを、素直に聞く人がいないのは当然だった。

「『なんでこんなことをやらされるんだ』『あんな練習に意味があるのか』。『こんなことをやって本当に箱根を走れるように強くなれるのか』……。こういった疑問を持つ子に対しては、『なんで』『意味があるのか』の部分に、しっかりした答えを示してあげることができれば、目的を理解し、真摯に取り組むようになる可能性が高いのではないか」

美穂さんはそう考え、原監督に丁寧な説明をするよう進言したという。

「乗り越えた先に何が待っているのか、イメージさせてあげることが指導者の大きな仕事だと思います。ただ理由や目的を伝えるだけでなく、そうすることで、あなたにとって、どんないいことがあるのかを理解するところまで、導いてあげるのです」

「いいから黙ってやれ」と頭ごなしに命じても、モチベーションを奪うだけだ。また、「こうすれば、こうなるからやれ」と答えを教えても、別の練習メニューの前ではまた立ち止まってしまう。自分で考えずに言われたことをただやっているからだ。

このような組織では指示待ちの人材ばかりになってしまう。若手が自分で答えをみつけるよう「自分で考える力」を育ててやることは、一見、手間がかかるようだが、より大きな成果を生み出す。