さらばPDCA、時代はOODA

変化の激しいビジネスの世界でも、価値の源泉となる知識により機動的に戦う知的機動戦が重要になっている。その際、一人ひとりに求められるのが知的機動力だ。絶えず動く現実のただ中では日々矛盾に直面する。ベストな解は誰にもわからない。そこで、その場の文脈に応じて、「よりよい(ベター)」に向かって矛盾を解消する俊敏な判断能力が重要になる。この知的機動力を高めるため、海兵隊が隊員一人ひとりに叩き込むのが「OODA(ウーダ)ループ」と呼ばれる意思決定プロセスだ。

OODAループは「観察(Observation)・情勢判断(Orientation)・意思決定(Decision)・行動(Action)」の4段階からなる。最初の観察では五感を駆使して現実をあるがままに直観し、暗黙知的に知覚する。最新の脳科学でも知覚的な情報はほとんど身体が吸収し、脳はそこからしみ出る一部の情報を認識していることが判明している。次の情勢判断では、過去の経験、自身の資質、身についた文化など自らが蓄積してきた暗黙知と新たに知覚した情報をもとに判断する。そして、対応策を意思決定し、行動に移す。

特に重要なのが「ビッグO」と呼ばれる2番目の情勢判断だ。それぞれの部分的な知を総合して全体としての概念を導き、判断する。こうして暗黙知と形式知を相互変換しながら、「部分から全体へ」と総合し、概念化していくことを「暗黙的知り方」と呼ぶ。客観的な数値データをもとに「AだからB、BだからC」のように論理をたどる「分析的思考」よりはるかに俊敏に判断ができる。この過程で論理では到達できない「跳ぶ発想」が入ると創造的でイノベーティブなアイデアが創発され、新しい価値や意味が生まれる。

このOODAループをより俊敏に回せるように身体知化させるため、海兵隊で行われるのがブートキャンプと呼ばれる新兵訓練だ。3段階に分かれた全13週間の徹底した訓練により、暗黙的知り方を身体知化するのだ。

▼優先すべきは組織の結束である
1st:自己否定を目的に、一人称の使用は禁止
2nd:2本柱は格闘技プログラムとライフルの射撃術
3rd:総仕上げの戦闘術訓練を経て、晴れて海兵隊員に

13週間徹底訓練、ブートキャンプ3ステップ
ブートキャンプでは、まず、新兵の従順性を強化するため、ショック療法的に軍隊の基本を叩き込む。続く徒手空拳で戦う格闘技の訓練では、限界を超えることで未開拓の能力を鍛え抜く。また、射撃術は照準や風速、風向きの計算や、呼吸、姿勢など、多様な要素への集中が必要だ。それを部分として総合して「1発必中」という全体の概念と結びつける。仕上げは戦闘術訓練だ。こうして暗黙的知り方を身体知化していくのだ。

OODAループと対照的なのがPDCAサイクルだ。「計画(Plan)・実行(Do)・評価(Check)・改善(Action)」のプロセスのうち、計画(P)はOODAループの意思決定(D)に相当する。

ただ、PDCAサイクルの問題点は、計画の前段階として観察(O)と情勢判断(O)にあたる部分がないことだ。つまり、計画を生み出すプロセスが入っていない。それは、PDCAサイクルがトップダウン型の消耗戦に適応した効率追求モデルであるからだ。

トップおよび戦略スタッフがマスタープラン(基本計画)を策定し、それがブレークダウンされて数値ベースの計画が下りてくる。第一線部隊は計画ありきでPDCAサイクルを回し、効率を追求する。しかし、上から与えられた数値ベースの計画からは新しい意味や価値は生まれない。つまり、PDCAサイクルでは知的機動戦は戦えないのだ。

そのため、「本業消失」を乗り越えた富士フイルムホールディングスの古森重隆会長は、PDCAサイクルを見直し、See-Think-Plan-Do(STPD)というサイクルに改良したが、この前段階にあたる「See-Think(観察・判断)」の重要性を訴えているほどだ。