「6年ぶりの代表作」として書いた
――宇野さんは『母性のディストピア』を、『ゼロ年代の想像力』、『リトル・ピープルの時代』に続く代表作と位置づけているのですね。
完全にそうです。久しぶりの自分の代表作にしようと思って書いた本です。
――ということは、『リトル・ピープルの時代』が2011年なので、6年ぶりになりますね。その間は、むしろ編集者としての仕事が多かった。
多かったですね。『PLANETS』のVol.8と9があって、『魔法の世紀』(落合陽一著、PLANETS刊)があって。
――このタイミングで『リトル・ピープルの時代』に続く代表作としての単著を書こうと思ったというのは、どういう理由なんでしょうか。
僕にとって、編集者としての仕事と批評家としての仕事は両輪なんですね。端的に言うと、編集者として勉強したことを使って自分の批評を書いている。だから、この本には6年分のアップデートを詰め込んでいます。
――ここ数年、宇野さんは自身が責任編集を務める雑誌『PLANETS』の活動などを通して、実業家、コンサルタント、IT系の起業家やエンジニアなど、いろいろな同世代のネットワークを作っていましたよね。つまり、今の宇野常寛という人は、批評以外にも社会に影響を及ぼす回路を持っている。
そうですね。
2013年から付き合う人を変えた理由
――そういうネットワークを作ろうと思ったのはなぜでしょうか。
2013年くらいから、意図的に付き合う人を変えたんです。文学とか批評とか思想とかサブカルチャーとか、そういった出版関係の業界と、意識的に距離をおいたんですよね。別に彼らが嫌になったわけではなくて、単純にあの頃の自分はこれまで話したことがなかった人と話すのが楽しくて、ものすごく勉強になるな、という実感があった。そこで自分の知的好奇心を純粋に満たしてくれる人に自分から会いに行って、一緒に仕事をしたい人を見つけていく、ということを始めたんですよね。
――そういう動きが一つの形になったのが『静かなる革命へのブループリント:この国の未来をつくる7つの対話』ですよね。ここで共著として挙がっているチームラボの猪子寿之さんやメディアアーティストの落合陽一さんのような人は、文学や批評の領域の人たちではない。むしろ、より実効的に、テクノロジーや情報社会に関わることによって現実社会を変える力を持った人たちですね。
この10~20年くらい、世界に対して最も深く鋭い洞察をもった人間というのは、情報社会の変化、つまりインターネットメディアについて考えている人間だったと思うんですよね。しかし、そのフェイズがだんだん終わろうとしている。情報テクノロジーが大きく世の中を変えようとしているのは誰も疑いようがないわけですけれど、それがモニターの外側にはみ出しはじめていると思うんです。