どうやって心を整えるか

さて、ここまでは日本での話。より広い視点に立ち、世界を見回すと、日本の美徳などまったく通じません。

カイロ大学に留学していた頃、町でケンカしている子どもたちの姿を見かけました。彼らはどんなに小さくても、立派に自己主張して堂々とケンカをします。しかもちゃんと「怒る」ポーズをとるのです。両手を腰に当てて、「俺は怒っているぞ」と態度でも示す。彼らは、幼い頃から人生のサバイバルとして怒る技術を身につけて学ぶ必要があるわけです。

これは子どものケンカに限った話ではありません。国際交渉の場でも「怒る技術」は必要不可欠となります。

日本人はどうしても「阿吽の呼吸」や「暗黙の了解」でこちらの意図をくみ取ってもらいたいという期待が働きがち。あるいは、数日間続く会議の席や、今後も交流をしていかなくてはならない相手の場合、「喧嘩したくない」「できるなら穏便に済ませたい」と無意識にふるまってしまうこともあるでしょう。

しかし、外国人相手には、日本人用とは異なる喜怒哀楽の表現力が必要です。あいまいにほほ笑んでいるだけでは、なめられてしまうこともあるからです。

かつて京都議定書の締結をめぐり、ロシア人相手にかなり激しく「交渉」をしたことがあります。温室効果ガス削減に向けての議定書が発効できるかどうかは、ロシアの参加いかんにかかわっていました。ここで引いてはこれまでの努力が水の泡です。相当激しい言葉と表情で押しまくったことを覚えています。結局、2004年にロシアは議定書に合意し、05年に議定書は発効されました。

最後に、「心を整える」という意味で私がお勧めしたいのは、富士登山をする自分の姿をイメージすることです。

自分が目指して歩んでいく山頂がある。そこにたどり着く道中には、崖や落石などもあるでしょう。しかし、そこで「なんでこんなに道がきついんだ」と怒っていても、体力が無為に奪われるだけです。怒る余力があるならば、富士山を登りきるためのエネルギーに替えて、確実、安全な道を一歩一歩進むほうが、断然よいではありませんか。

小池百合子(こいけ・ゆりこ)
1952年生まれ。カイロ大学文学部社会学科卒業。テレビ東京『ワールドビジネスサテライト』などでキャスターとして活躍。92年政界に転身し、環境大臣、防衛大臣などを歴任。2016年、東京都知事に就任。
(構成=三浦愛美 撮影=原 貴彦 写真=時事)
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