アメリカは、19世紀以来、「交戦権」を否認してきた。ヨーロッパ権力政治の勢力均衡政策の影響を排除するため、「戦争をしているのだから中立国の船舶を攻撃せざるを得ないこともある」といったヨーロッパ人の交戦権思想を、強く否認してきた。アメリカ人たちが、ドイツ潜水艦による中立国アメリカの船舶への攻撃に激怒して、第1次世界大戦への参戦を決意したのは、「交戦権」を否認する国際法秩序を、西半球世界からヨーロッパにも広げるためであった。「交戦権」否認は、日本国憲法のオリジナルではない。数世紀にわたるアメリカの対外行動の成果である。

アメリカ合衆国とは、自国の憲法典を参考にして、日本国憲法の草案を起草した人々の国である。合衆国憲法、国際連盟規約、不戦条約、大西洋憲章、国連憲章と連なる法規範思想の系譜にストレートに連なっているのが、本来の日本国憲法である。ドイツ国法学の概念と伝統で、強引にアメリカの色を憲法解釈から取り除こうと画策してきた日本の憲法学者の影響を受ける前の、本来の日本国憲法である。

憲法9条3項追加では、ぜひこれらのほんとうの憲法の姿を、憲法学者にもわかる形で表現してもらいたい、と私は思っている。

明晰な憲法解釈でガラパゴス社会を脱せよ

憲法を守るということは、国際法を守るということである。解釈に迷ったら、国際法を参照して、意味を確かめればいい。憲法学者の想像力や多数決に全てを委ねる必要はない。
それでは自衛権だけでなく、集団安全保障も認めるのかと言えば、そうである。残念ながら、憲法典から国際法を否定する論理を導き出すのは、ほんとうは難しい。政策論をしたいのであれば、きちんと政策論であると割り切って、行うべきだ。

いずれにせよ、観念論的な曲解を振りかざした挙げ句、「自衛権」解釈も自分たちに仕切らせろと迫る憲法学者が君臨する社会は、まさにガラパゴスでしかない。憲法解釈の明晰化を、日本の未来志向の国づくりにつなげたい。

(*1)篠田英朗『ほんとうの憲法:戦後日本憲法学批判』(ちくま新書、2017年)
(*2)第189回国会 内閣衆質一八九第一六八号

東京外国語大学教授 篠田英朗(しのだ・ひであき)
1968年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業、同大学大学院政治学研究科修士課程修了、ロンドン大学(LSE)大学院にて国際関係学Ph.D取得。専門は国際関係論、平和構築学。著書に『国際紛争を読み解く五つの視座 現代世界の「戦争の構造」』(講談社選書メチエ)、『集団的自衛権の思想史――憲法九条と日米安保」(風行社)、『ほんとうの憲法 ―戦後日本憲法学批判』(ちくま新書)など。
(写真=AFP/時事通信フォト)
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