KSK(国税のデータベース、国税総合管理システムの略称)には過去の売上データの蓄積もあり、そうした売上除外は調査選定機能で「フラグ」が立つことになる。そうかんたんに当局の目をかいくぐって脱税することなどできないのだ。
「ミリオンクラブ」のその後
さて、後日談である。ミリオンクラブもほかのバー・クラブと同じように、当局の税務調査により申告漏れが指摘され、追徴される運びとなった。やはりミリオンクラブでも例に漏れず「売上除外」をしていた。
そのときの調査官に聞いて驚いた話がある。ミリオンクラブのママは、A氏とライバル企業の関係にあるT社の重役と実はデキていた、というのだ。母子家庭のママは、子供を有名私立に通わせるため、新たなパトロンとなったT社の重役に保証をしてもらった、ということらしい。どう見ても「ただならぬ関係」である。これはまったくの余談だが、クラブの女の子は思いのほか母子家庭の割合が高い。
A氏の水増し請求をママがタレコミした、本当の理由が、もしT氏の重役との「大人の事情」によるものだったとしたら……。もちろん、真実はヤミの中だ。何がきっかけだったかは知るよしもない。一介の税務調査官がこれ以上、個人の私的な問題に踏み入るのも野暮である。このへんにしておこう。
新刊『富裕層のバレない脱税』(NHK新書)では、今回の記事で書いたようなバー・クラブなどの現金商売から、宗教法人、富裕層の脱税まで、元国税局員としての経験をもとにさまざまな脱税手法を取り上げている。特に私が所属した国税局資料調査課(通称「リョウチョウ」)は、マルサを超える最強部隊とも称される部署であり、ターゲットは「大口」「悪質」「宗教」「政治家」「国際取引」「富裕層」など調査するのが困難な案件を多く担当した。その経験に基づいた本なので、脱税手法や税務調査に興味のある方は参考にしていただければ幸いだ。
なお、本稿は国家公務員法、税法および税理士法で定める守秘義務に配慮するため、一部創作を含んでいる。悪しからずご了承いただきたい。