悪い数字も良い反響も全て共有。全員に当事者意識を

これと同時に、チーム・ビルディングにおいて松田氏が強く意識したのは、「情報の共有」だった。コミックエッセイ部門では、すべての数字をオープンにしていたため、誰の手がけた本がどれだけ売れているのか、あるいは売れていないのかを全員が知っていた。しかし、レタスクラブ編集部では実売数や売上といった数字をリアルタイムでメンバーに公開していなかったのだ。

8月25日発売『レタスクラブ』最新号。特集は「家計お助けレシピ」で、天候不良に伴う野菜の価格高騰にぴったりハマった。

「数字を意識させないことも気遣いではあると思います。けれど、今は新たな改革が求められている時期。このままではいけないと思い、毎週の販売消化率と広告受注金額、他誌との売上対比を全メンバーに向けてオープンにし、販売部門とも共有することにしました」

「うちはこれだけ売れている。でも、ライバル誌はもっと売れている」という絶望からスタートさせた上で、「ここからどうする?」と投げかけたのだ。

「あえてシビアな現状を知らせ、全員に当事者意識を持ってもらおうと考えました。そして、悪い数字だけでなく、ツイッターに上がっている良い評判なども全て共有していくようにしました。『一生懸命やっても、支持率が低ければ失敗なのだ』と捉えてしまえば、次からチャレンジする気持ちが薄れ、企画もどんどんシュリンクしてしまう。だからこそ、毎日毎日、誰も反応しなくても良い評判を共有し、自分のアイデアが受け入れられる喜びを体感させ、みんなの自信を回復させようと考えたのです」

松田氏は、常日頃から情報を共有していくために、メンバー間でのメーリングリストを作成。各自が拾った読者の評判や反響なども発信してもらうようにした。こうした情報共有の取り組みを続けるうち、メンバー全員に明るさが戻り、積極性はさらに増した。一方、広告部門や営業部門に対しても、情報共有と連携に力を入れ、いい関係性をつくるよう努めたという。

「編集と広告営業は対立構造に陥りやすいものですが、それこそ非効率な話ですよね。雑誌において広告収入は大きいので、(編集は)むしろ営業に全面協力するべきなのです。クライアントが満足するものをつくれば、再出稿の提案もしやすくなりますから、打ち合わせ同行から企画づくりまで積極的に行うことで、受注の底上げを図りました。また、実売部数を伸ばすには営業部門の力が不可欠ですから、こちらでも週に一度のミーティングで情報共有をしていきました」

「褒めあうこと」でチームに一体感が

すべてにおいて大切にしたのは、「褒め合うこと」だ。編集メンバーも、広告部門も営業部門も、苦楽を共有しながら互いをたたえ合う。これによって、全体に一つのチームとしてやっていく一体感が芽生えたのだ。

次回は、松田氏がレタスクラブ月刊化のタイミングで誌面をどのように変え、読者を巻き込んでいったのか、その編集手法を聞く。(後編は9月12日に掲載予定です)

松田紀子
レタスクラブ編集長。1973年生まれ。タウン誌やリクルート『じゃらん九州』にて編集を経験後、2000年、メディアファクトリー入社。コミックエッセイの編集者、編集長として活躍。KADOKAWAとの合併後の2016年、コミックエッセイ編集課とレタスクラブの編集長を兼任。
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