ピカソ、ミロが愛した美術雑誌とは

アート業界には、コレクター垂涎の伝説的な美術雑誌が存在する。『カイエ・ダール』は1926年にパリでクリスチャン・ゼルボスにより前衛的な美術雑誌として創刊された。当時彼と親交の深かったピカソやミロ、マティス、デュシャンなど名だたる作家がこの雑誌のためにオリジナル作品を制作し、ブルトンやヘミングウェイが詩や美術批評を寄稿した。

通算100号目は世界的な現代美術家である杉本博司の特集号。(提供=Courtesy of Edition Cahiers d'Art, Paris)

広告は無く、特集ごとに紙や製本、印刷など細部にまで美意識を徹底させ、雑誌自体が一つのアート作品として今なお世界的に評価されている。かの岡本太郎も、数々の特集に大きな衝撃と影響を受けたことを書き残している。この唯一無二の美術雑誌は、ゼルボスの死去により1960年に惜しまれつつ休刊するまでに97号を発行した。

それから半世紀を経て、スウェーデン出身のアートコレクター、スタファン・アーレーンバーグが電撃的に版権を買い取り、美術業界の著名人を顧問や編集に迎え2012年に復刊第1号で通算98号目を発行。神格化された雑誌にオーナー兼発行人として新たな命を灯し、今年通算100号の発行を期に来日した彼にインタビューを行った。

ビジネスマンだった彼の父親は、アートコレクターとして広く知られている。幼少期から選りすぐりの近現代のアート作品に囲まれ、『カイエ・ダール』は父の愛読誌であり、ピカソやコルビジェなど著名なアーティストたちと日常的に親交のある環境に育った。彼のiPadには、幼い彼が家族と共にピカソ夫妻と戯れるプライベートな動画がおさめられている。彼にとって、アートの無い生活は考えられない。