第一歩は、「自由に意見を言える」会議のムードづくり

異動直後、レタスクラブ編集部のメンバーは10人(現在は8人)。40代が中心であり、長くこの媒体に携わってきた編集者が多かった。ベテランぞろいで落ち着いたムードではあるが、ともすれば、「静かすぎる、おとなしすぎるのではないか」。そう松田氏は感じたという。

レタスクラブ編集長、松田紀子氏。

「コミックエッセイ編集部は各自が自由に意見を言い、常に笑い声が絶えない環境でしたから、雑誌も当然そうだろうと思っていたんです。しかし、レタスクラブの編集部内は非常に静かで、シーンとした空気の中で各自が黙々と作業をしていました。そこで、もっとにぎやかに居心地良くしたいと考え、『ひらめきや発想を誰もが気軽に話せるような、のびのびとした職場に変えよう』と決めたのです」

手始めに取り組んだのは、編集会議で全員に発言を促すことだった。端から順に時計回りで発言させても、ポツリポツリと返事は返ってくるものの話がそこで終わってしまい、静かすぎるムードは変わらない。松田氏は、ランダムに当ててどんどん発言させ、どんな意見も否定せず、全て拾っていくことからスタートした。

「当初は誰かのアイデアに対し、『競合雑誌ですでにやっている企画だからダメ』などの反対意見が出ることもありましたが、『いや、全然ダメじゃないよ』と。人間、否定されると思えば、ハナから発言を諦めてしまうものです。でも、正解なんてどこにもないですから。思いついたことがあるなら、どんどん言ってほしいんです。そんな空気を浸透させながら、みんなのアイデアをホワイトボードに書いて可視化していきました」

「これとこれを合わせたら面白い企画になる」。松田氏がその場でアイデアをまとめて企画化していく中、メンバーからも新たな提案が飛び出すようになったという。

「その場の思いつきレベルの発想についても、各自の知見を生かして企画として実現する方法を提案してくれるようになりました。そもそも、みんなこの分野のベテランであり、料理の知識に長けた素晴らしいメンバーなのです。ただ、『何をやったって、もう雑誌は売れない、無難な企画が一番なのだ』という思い込みがあったのでしょう。実際にページをつくる彼女たちに『自分の意見が本誌の骨子になる感覚』を味わってもらったことで、チームで新しいものをつくっていく意識と、その楽しさを共有できたと感じますね」