Aさんのようなケースは例外だろうか。早朝から深夜まで1日の大半を職場で過ごしている人はまだまだ多い。ひたすら仕事に追われて、たまに飲み屋で憂さを晴らす。そんな会社人間の毎日は、家→会社→飲み屋→家→会社→飲み屋の繰り返し。これを俗に「魔のトライアングル」という(ちなみに子育て中の主婦が陥る魔のトライアングルは、家→公園→スーパーとなる)。いったん、この「魔のトライアングル」ゾーンに入り込むとなかなか抜け出せない。新たなアイデアを閃かせたり感性を磨いたり、異質なものと触れ合うなどという機会もなく、ましてや自分の価値を高めるために学習する余裕などあるはずがない。

大量消費、大量生産の時代はそれでもよかったのだ。作ったそばからモノがどんどん売れていき、豊かさを実感することができた。自分のキャリア、自己成長は会社の成長とともにあり、会社が求める価値観、生き方をすることで、出世や昇給が保証されていた。

それがいまや様変わりしてしまった。時代は個人の智慧やアイデアや感性を求めている。多品種少量生産で、商品のサイクルは限りなく短くなり、ブランド戦略やイメージ戦略がより重要視されるようになった。

そんな時代に必要な人材は、自分で考え判断し、自ら率先して行動する人材である。変化の激しい時代に、「学習」しないとどうなるか。答えは明らかだ。目の前の仕事にだけ追われていて、どうやって自分の付加価値やスキルを高められるのか? 自己投資の時間の差が、今後のキャリアに決定的な差を生むのである。

Aさんのように、自己啓発に時間を使いたい社員は急増中だ。例えば、大学院における社会人入学者数はここ10年で3倍近くになっている。

また、厚生労働省の調査によると、約8割の正社員が自分のキャリアパスは自分で考えるべきだとしている。しかし「忙しくて自己啓発の余裕がない」という人も半数にのぼり、自己啓発が重要だとしながらもその時間が確保できずにいるという実態が垣間見える。

一方、企業の自己啓発の支援方法は、「受講料などの金銭的援助」が6割、「就業時間の配慮」は3割弱にとどまっている。社員が求めているのは金銭的援助よりも「時間の確保」なのだが、その思いは伝わっていない(厚生労働省「平成17年度能力開発基本調査」)。