長時間労働は生産性や競争力に繋がらない

データ調査会社に勤める32歳のBさんは、スキルアップのため専門学校に通い中小企業診断士の資格にチャレンジ中だった。無事2次試験にも合格し、実務補習受講のために上司に有給休暇を申し出たところ、「若いやつはすぐ、『資格が大事だ』なんて言うが、勉強なんて現場でするもんだ。転職でも考えているのか!」と、却下されてしまった。

「学習のための時間を部下に渡す」、そんなシンプルなことを理解できない上司は案外多いのだ。

企業間の競争が激化するなかで「社員に柔軟性を与えたりするとわがままになり収拾がつかなくなる」「仕事よりも生活を優先する社員が増えすぎて競争力が低下しないか」という不安を持つ経営層はまだまだ多い。

しかし、必ずしも長時間労働が企業の生産性や競争力を生み出しているわけではない。長時間労働と生産性の関係についての研究では、時間あたりの生産性(平均効率)が最大となる月間労働時間は161.45時間と推計され、実労働時間(178時間)がこれを上回ることにより4分の1程度、生産性が下がっていることが明らかとなっている(小倉一哉・坂口尚文「日本の長時間労働・不払い労働時間に関する考察」2004年)。

独創性やアイデアによって成長する知識創造型企業がますます重要視される中、生産性・競争力を測る指標は「時間や量」から、「仕事の質や成果」といったものに変化している。

そこにはこれまでの仕事の内容ややり方を見直して新しい働き方を構築するというプロセスが必要になってくる。

1996年、米国フォード財団の研究チームは、ワークライフバランスを有効に機能させるため、仕事の再設計プログラムを開発した。

このプロジェクトは「どのように仕事のやり方を変えれば期待する成果が出、同時に私生活を充実させることができるか」という問いから出発しており、仕事そのものを見直すという画期的なものであった。完成したプログラムは2段階から成り立っている。

第1段階は、既成概念の見直しである。例えば長時間労働をしたり会議への出席回数の多い社員は仕事熱心と見られ、家庭や私生活を大事にする社員は熱意が低いと見られるような企業風土の改善などを行う。

第2段階は仕事のやり方の見直しである。多くの場合、すでに仕事の進め方ややり方は計画され、組織化され、それを達成する方法も習慣的に身についている。しかし、それが現在の企業がめざす目標を達成するために本当に効果的とは限らないのだ。