「地域がよいと、会社もいい」

西日本一の歓楽街だった中洲は、平成の初めまではデパートや映画館があり、昼間も賑わう街だったが、現在は夜だけの街となった。店の数も年々減っている。出店数が増えている県外資本の飲食店の中には、「地域への思いがない」「町内会費を払わない」「ゴミ収集や暴力団撲滅への協力をしない」などと厳しく指摘され、地元との軋轢が生じている店もあるという。

そういった問題を解決するためにも山笠は役に立つと、社長の川原武浩(45)は言う。

「中洲流のスローガンは融和と親睦です。中洲で商売をしている人たちが一緒に山笠に出ることによって、仲よくなり、地域への愛着を持ってもらえるようになれば、地域ブランドが使いつぶされるのではなく、いっしょにブランドを育てていく方向に巻き込むことができます」

これは、中洲流だけの話ではない。大黒流の大野、西流の岡崎、恵比須流の本田。社員ひとりひとりが地域にとって意味ある存在であることは、ふくやがほめられること以上に価値があるのだと川原は言った。

「地域がよいと、会社もいいんです。福岡や博多に魅力があるから、辛子明太子が売れるんです」

年商149億円のふくやでは、営業利益の20%を社会貢献活動にあてている。

地域を支え、支えられる男たちの背中はたくましい(撮影・比田勝大直)

経営難にあった地元プロサッカーチーム、アビスパ福岡への支援もそのひとつだ。PTAやスポーツ指導など、社員が地域のために活動することを奨励する地域活動手当もある。

自分たちの愛する博多のために役立とう、そのために商売を頑張って利益を出そう。この経営方針のもとに、新入社員の本田のような若者がふくやに集まる。

町の無病息災を願って駆ける山笠の核と、博多の町に役立つために商売を頑張るというふくやの経営方針は、重なり合って、1948(昭和23年)の創業以来、70年後の現在まで確実に伝えられてきた。 

最後にもう一度、川原に尋ねた。

社員が山笠に出ることは、なぜ会社にとっていいのか。

「山笠を通して、人への思いやりが育ちます。地域のコミュニティで必要とされる人が育ちます」

それで十分ではないですか?

人の前に立つよりも、皆が楽しそうにしているのを後ろから支えるのが好きだと語っていた川原の、穏やかな目がそう言っていた。(終)

=文中敬称略

​記者:三宅 玲子(みやけ・れいこ)
ノンフィクションライター。1967年熊本県生まれ。「人物と世の中」をテーマに取材。2009~14年北京在住。ニュースにならない中国人のストーリーを集積するソーシャルプロジェクト「BillionBeats」運営。福岡・住吉の夜間保育園「どろんこ保育園」のノンフィクションを今秋上梓予定。
(記者:三宅玲子 撮影=比田勝大直)
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