仮説を組み立てる思考力、想像力が育つ

金沢での対局を控える丸山忠久九段に、こどもの教育と将棋について話を聞いた。ご存じのように丸山九段は、藤井四段が公式戦29連勝を達成するまで、24連勝という平成の公式戦連勝記録の記録保持者でもある。

――将棋を覚えることで藤井四段のような礼儀は身につくでしょうか?

丸山忠久九段。1970年千葉県木更津出身。名人2期、棋王1期。

藤井さんがあの若さで礼儀がしっかりしていることから、将棋を学ぶと自分を律することが学べると思われる方もいらっしゃいますが、将棋というよりも多分に彼の性格でしょうね。棋士にも豪快な人間もいれば、いろいろなタイプがいますから。

勝っても棋士がガッツポーズをあまりしないのは、ガッツポーズをしてはいけないというルールがあるわけではありません。対局中は頭をフル回転させた理詰めの世界。勝つのは喜びですが、理詰めで考えた結論がこうなったという客観的というか理性の方が勝っている状態で、勝ったという喜びの感情は対局後すぐには湧いてこないのです。

――AI将棋も強くなりましたし、ネットでいつでも対局できるようになりました。こういった環境は将棋の上達にどのような影響を与えているのでしょうか。

いつでも強い相手と対戦できる環境になりました。将棋はどうしてもミスをしてしまうゲームです。対局を数多く積む経験は重要で、パターン認識というか、経験値のようなものが上がれば、ミスをしにくくなるかもしれません。

――将棋で培ったことは、勉強や、将来ほかのことにも役立つでしょうか?

勉強もある程度パターン認識的な部分と、思考的、想像力を使って解かなくてはいけない部分がありますよね。学校での勉強は、どちらかというとパターン認識のほうに重きがあると思います。将棋は自分で仮説を組み立てていく思考力、想像力が必要なので、それは補強できるかもしれません。

――ひらめきですね。

本当にひらめいたと思うときはあります。でも、相手が強いと、あ、ひらめいた、でも検討してみたらダメだった、の繰り返しです。想像力を駆使して仮説を立て、使えるかどうか検討して決断する、の繰り返しです。

棋譜の研究で、難しい一つの局面をひと月ほど考えることもあります。いくら考えてもわからない。でも、あるとき、別のことをしていてふとひらめくことがあるんです。

――考え続ける持久力ですね。大人にもひらめきは欲しいもの。頭がさえた状態にするために、コンディショニングで心がけていることはありますか?

睡眠は十分に取ります。対局前ですと必ず7時間以上は寝るようにしています。食事は食欲がなくなる人もいますが、私はお腹が空いてしょうがないので対局中でもよく食べます。

対局が終わると体を動かしているわけでもないのに、ヘトヘトになります。とても体を動かす気分ではないのですが、無理してでも動かしたほうが不思議と疲れは取れるので、対局後はジムでウエートトレーニングをすることが多いですね。

(取材・撮影=遠藤成)
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