強いわが子に勝てない父親の寂しさ
手数のかかる穴熊戦法の陣形をコツコツ組み立てる少女。将棋の純文学ともいわれる櫓(やぐら)戦法で戦う少年。複雑なゲームを、こんな小さい子がと感心するが、初心者同士なのか緊張しているのか、空き王手になったことを互いに気づかずに指し進むような対局もあって、ちょっとホッとする。
子どもたちの対局を邪魔しないよう、床には対局者以外立ち入り禁止のテープが貼られ、その外側からわが子の対局姿を撮影する保護者たち。アドバイスはもちろん、声援もできないが、真剣な顔もあれば、微笑みながらと保護者の表情もさまざまだ。
「負けました」「参りました」と敗者が頭を下げ、勝者も礼を返し対戦が終わる。「3連敗だ~~」とひょうきんに振る舞う子もいれば、保護者のもとへ駆け寄って泣きじゃくっている子も。勝ってガッツポーズをする子もいるかなと思ったが見当たらない。
トーナメントに進めなかった子も楽しめるように、会場には「誰とでも何回でもさせる」自由対局コーナー、指導対局コーナー、詰め将棋クイズなども用意されている。また、プロ棋士のすごさを目の当たりにできる「目隠し詰め将棋」など、1日将棋を楽しめるプログラムで盛りだくさんな大会。
トーナメントを勝ち上がり決勝まで進むと、対局する2人は羽織袴を着て舞台上にあがる。しかも一手指すごとに女流棋士が棋譜を読み上げ、舞台横ではプロ棋士による大盤解説がはいる。まるで、プロ棋士になったような気分が味わえるのだ。
北陸・信越大会の低学年部門の決勝を戦ったのは橋本千時(ちゆき)くん(富山市立大広田小学校3年)と日下克紀くん(富山市立柳町小学校2年)。高学年部門の決勝は高橋憲太朗くん(津幡町立中条小学校6年)と佐藤漣くん(金沢市立三馬小学校5年)。
対局を見守る保護者に「お子さんが将棋を始めたきっかけは?」と尋ねると、「子どもや孫と遊ぶために父親(祖父)が教えた」という答えがほとんど。ところが子どもが将棋に興味を持って将棋教室に通いだすと、あっという間に歯が立たなくなってしまったのだとか。「負けると権威がなくなる気がするので、今では対局は避けています」と、強いわが子を誇りに思いつつもどこか寂しそう。
「将棋を覚えて変わったところは?」と聞くと、「集中力の無い子だと思っていたら、将棋となると夢中になる。好きなことが見つかってよかった」「将棋を指す時間をつくるために、宿題を先に終わらせるなど規則正しい生活になった」「強くなろうという意欲がすごい。こんなに負けず嫌いだったとはと驚いた」とみなさん歓迎ムード。
こども大会が終わると、JTプロ公式戦のトーナメントがはじまる。これは前年度の優勝者、竜王、名人、王位、王座、棋王、王将、棋聖の各タイトルホルダー、そして前年度賞金獲得ランキング上位者を合わせた、棋士のトップ12人だけが出場を許される公式棋戦。スター棋士の真剣でスリリングな戦いが目の前で見られる公開対局というのも、この大会の大きな楽しみだ。