グローバリズムが食のシーンを変える

グローバリズムは料理の世界も席巻しています。シェフたちは世界各国の食材や調味料に情報ネットワークを張り巡らしていて、美味しい、面白いと思えば、地球の裏側からでもモノを調達するのです。すると、「良い食材」は世界中で提供されるようになるわけで、和牛とマグロはまさにその典型なのです。またもっと身近な素材としては、日本のマヨネーズの評価も極めて高く、海外のトップレストランでは堂々と「ソース」として使われているそうです。

前出のシェフによれば、仲間うちで「灰色の料理」という表現を使うことがあるといいます。その意味するところは、「その店やその地域を感じることができない料理」。今、イノベーティブで世界最先端とされる料理は、一見きらびやかなようで、実はこうした「灰色化」が進んでいると言えるのかもしれません。

「イノベーティブ」な料理はこれからどうなる?

今回触れたのはとても難しいテーマです。一流レストランの料理とは非常にクリエイティブなものであり、これまでになかったものを料理人が生み出そうとする姿勢や努力は素直に評価すべきものです。それを否定しては進歩を止めることになりかねません。

しかし、イノベーティブなレストランで提供されている料理の中には、サプライズがあるようで実は印象に残らないものだったり、オリジナルを追求したつもりが他店と似たようになっていたり、料理に本来欠かせないはずの地域性が重視されていなかったりと、さまざまな課題があるのもまた事実のようです。長い料理の歴史の中でこうした流れが生まれてきたのはほんの10~15年程度のことですから、まさに今は過渡期の真っただ中と言えるでしょう。

店側は今後も新しいチャレンジにどんどんトライしていくべきですし、お客はそういう前向きな取り組みには肯定的であってほしいと思います。とはいえ、時に奇抜とも思えるイノベーティブな料理を必要以上に礼賛することなく、「何か違う」と思えば、そういう声を発していくこともまた同時に大切なのでしょう。

子安大輔(こやす・だいすけ)
カゲン取締役、飲食プロデューサー。1976年生まれ、神奈川県出身。99年東京大学経済学部を卒業後、博報堂入社。食品や飲料、金融などのマーケティング戦略立案に携わる。2003年に飲食業界に転身し、中村悌二氏と共同でカゲンを設立。飲食店や商業施設のプロデュースやコンサルティングを中心に、食に関する企画業務を広く手がけている。著書に、『「お通し」はなぜ必ず出るのか』『ラー油とハイボール』。株式会社カゲン(http://www.kagen.biz/
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