行列ができるのが不思議なほど不便な立地

「小さな店が、地方を変える」。2店目は千葉県香取市の「恋する豚研究所」です。

ユニークな名前ですが、母体は社会福祉法人の「福祉楽団」。障がいの持つ方々の働ける場所をつくろうと、2012年に「株式会社恋する豚研究所」を設立し、ハム・ソーセージの製造を始めたのが最初です。2013年には同名の直営レストランを開業し、いまでは週末のたびに行列ができる人気店となっています。

人気店といっても、行列ができるのが不思議なほど不便なところにあります。最寄りに駅はなく、グーグルマップの「公共交通機関」でルートを調べても表示されません。周囲は雑木林と農地ばかり。クルマでいくとしても、カーナビがなければたどり着けません。そして現地に着くとモダンなデザインの建物が突如として出現し、驚くことになります。

「恋する豚研究所」(千葉県香取市)の外観

ヤマトの「スワンベーカリー」に触発される

母体である福祉楽団の理事長を務める飯田大輔さんは、東京農業大学の在籍中にお母様が亡くなったことで、お母様が当時進めていた社会福祉法人の設立準備を継承。親族と共に設立し、特別養護老人ホームなどを経営していました。

しかし、飯田さんは社会福祉法人が行政の決めた事業に取り組むだけの状況に問題意識を持つようになります。そんなとき、クロネコヤマトの生みの親である小倉昌男さんの「スワンベーカリー」の取り組みを知ります。小倉さんは障がい者雇用の現場で「月給1万円」など最低賃金を下回る給与しか支払われていないことに問題意識をいだき、月給10万円を目指す独自のベーカリーショップ「スワンベーカリー」を立ち上げました。

私は学生時代に、スワンベーカリーの店長さんから立ち上げ当時の話をお聞きしたことがあります。一番驚いたのは、当時冷凍パン生地が急速に技術進化し、簡易な店舗設備、専門職でなくてもおいしいパンが焼けるようになったことを活かして、新たなベーカリーショップモデルを作り、福祉の職場を広げていったというエピソードです。つまり障がい者の賃金を引き上げるため、積極的に新しい技術を活用していたのです。この点に小倉さんのすごさがあると思いました。

高級スーパーでも扱われる人気商品に

「恋する豚研究所」のロースハム

スワンベーカリーに刺激を受けた飯田さんは「ぜひ自分もやってみたい」と思い立ち、2012年に「恋する豚研究所」を設立します。飯田さんは「二番煎じ」では意味がないと独自路線を模索。もともと母方のご実家が養豚業を営んでいたということもあり、豚の加工、流通を障がい者の方々が働く新たな業態開発に繋げられないか、と検討を始めます。

ドイツなど海外の工場に何回も足を運びながら、ハム・ソーセージの製造工場を建設。ドイツ仕込みの商品は好評を博し、今では都内の高級スーパーでも扱われる人気商品になっています。