全国各地で「アートイベント」が相次いでいる。それらには税金が投入されていることが多く、「税金を使ったお祭り騒ぎ」と批判を受ける例も少なくない。一方、北海道新冠町では完全民営の美術館が年間2万人の来場者を集めている。成功の理由はなにか。まちづくりの専門家である木下斉氏は「常識外れな実業家が、自前主義を徹底した経営や展示を行っているからだ」と分析する――。

僻地の廃校が、年間2万人を超える来館者を集める美術館に

北海道新冠町に廃校を活用した完全民間経営の美術館があります。その名も「太陽の森ディマシオ美術館」です。

かつて小学校だったという立派な建物にはいると、多種多様な美術品がところ狭しと並んでいます。その中でメインを飾るのは美術館の名前にも冠されている幻想絵画の鬼才、ジェラール・ディマシオによる膨大な絵画コレクションです。圧巻なのは、体育館をリノベーションした展示室に飾られている縦9m、横27m、奥行き3.5mにもなる世界最大の油彩画です。

体育館を改装した展示室に展示された縦9m、横幅27mの巨大油彩画(写真=ディマシオ美術館提供)

あまりの大きさに少し引いて見ないと、全体像が視界に入りきりません。定刻になるとプログラムされた照明や音響が動き出し、インスタレーションが始まり、あっという間にディマシオが描く幻想的な世界に飲み込まれていきます。

このディマシオ美術館のある場所は雄大な自然に囲まれた……というか自然しかない立地です。「新冠」といってピンとくる方は、おそらく競馬が好きな方でしょう。競走馬の飼育で大変有名な地域で、「馬が驚くから夏も花火はできない」なんて逸話があるほど“馬第一”の環境です。

しかし、逆に言えば人間がいく目的はあまりない地域。そんな立地に年間約2万人の方が入館料を支払って来るのですから驚きです。

常識破りだらけ、だからこそ民間経営が成立するディマシオ美術館

美術館というと、格式が高く、知識がないと楽しめない、といったお固いイメージがないでしょうか。しかしながら、ディマシオ美術館はそんな印象を拭い去ってくれるほどのさまざまな“常識破り”があります。