2017年12月、スターバックスが北海道釧路市に初出店した。オープン初日は40分待ちの行列ができたという。日本で最も店舗数が多いコーヒーチェーンに、なぜ釧路市民は殺到したのか。釧路は道内でも人口減少が著しく、国の過疎地域に指定されている。北海道在住の編集者・小船井健一郎さんは「衰退する地域には競争相手が少ないという“うまみ”がある。都市と都市が離れている北海道ではそのうまみが大きい」と指摘する――。
スターバックス釧路鶴見橋店(画像提供=スターバックス)

一大イベントだった「スタバの開店」

2017年12月20日。スターバックス釧路鶴見橋店のオープン初日は、おしよせた客で満員のすしづめ状態だった。氷点下の寒さにもかかわらず、入場待ちの車は公道にあふれでて、誘導係がさばききれないほどになった。老若男女入り混じった客は、40分待ちの列をなした。スターバックスの開店は、釧路にとってそれほどの一大イベントだったのだ。

スタ―バックスの開店が、なぜここまでの注目を集めたのか。東京の人には、あまりピンとこないかもしれない。東京ではスターバックスは珍しくもなんともない。たいていの駅前にあって、通勤・通学の途中で気軽に立ち寄る場所だ。日常のなかに溶け込んで、特別な意識もなくつかう場所――それが東京のスタバだろう。

これまで釧路には、スターバックスが存在しなかった。もの珍しさから「スタバがくるらしい」という噂は数カ月前からながれ、出店場所や店の規模、出店の理由、バイトの募集内容やその顔ぶれまで、あれこれと情報が飛び交っていた。釧路の人と会えば必ず話題にのぼるほど、スターバックスの出店は人々の注目を集めていたのである。

なぜスタバは地方に出店するのか

開店から約半年後、店内は落ち着いていた(著者撮影)

釧路の人は、新しくオープンする店への感度が高い。だが、そのぶん飽きるのも早い。開店から半年ほどたった6月上旬、スターバックスに足を運んでみると、店内はすっかり落ち着いていた。客席は半分ほどが埋まるくらいで、並ばずにスムーズにオーダーできる。すでにスタバに「ハレの日」としての話題性はなくなり、もはや釧路の人の注目はこんど出店すると噂されている「いきなりステーキ」に移っているようだった。

釧路の人がスターバックスに夢中になったのは、噂話やコミュニケーションを楽しむための格好の素材だったからだ。むしろ不思議なのは、「なぜスタバは地方に出店するのか」ということだ。人口が減りつづける地方に出店するメリットはあるのか。あるとすれば、それはどういうものなのか。