こうした地方経済のなかで、最大のプレイヤーは「ヤンキーの虎」だ。

「ヤンキーの虎」とは投資家・藤野英人氏の命名で「地方を本拠地にしていて、地方でミニコングロマリット(様々な業種・業務に参入している企業体)化している、地方土着の企業体。あるいは起業家」のことを指す(『ヤンキーの虎』東洋経済新報社)。「地縁血縁」と「地元のネットワーク」をもとにビジネスをする人たちで、二代目、三代目として経営者になっているケースも多い。地域に根ざしながら事業を拡大することで、地元にたくさんの税金を収める彼らこそが、地方経済をまわす最大のプレイヤーだ。

スターバックス釧路鶴見店のむかいにある六花亭は、まさに北海道有数の「ヤンキーの虎」である。六花亭の2017年度の売上高は196億円。北海道みやげとして有名なマルセイバターサンドだけで80億円を売り上げるという。商品だけでなく、教育や文化活動などの地域貢献でも知られていて、地元の人々から広く愛されている企業だ。創業者・織田豊四郎が設立したNPO基金では十勝のこどもたちの詩を載せた雑誌「サイロ」を刊行し、自社で運営する文化施設「中札内美術村」には北海道ゆかりの作品が集められており、いかに地元を大切にしてきた企業なのかよくわかる。

向かい合って立つ、スターバックス釧路鶴見橋店と六花亭鶴見橋店(著者撮影)

ヤンキーの虎VSグローバルの虎

六花亭の釧路鶴見橋店は、販売とあわせてカフェスペースも設けられ、ゆったりとコーヒーを飲みながら菓子を楽しめるつくりになっている。その店の前に、スターバックス釧路鶴見橋店が、まるで対抗するかのように建てられた。ローカルで長く愛される六花亭と、グローバルで広く展開するスターバックスが道路をはさんで睨みあうさまは、まさに今の地方経済の縮図のようである。

地方のマーケットの総需要は伸びているわけではないので、プレイヤーたちはバッティングしあい、「ヤンキーの虎」と「グローバルの虎」が残ったパイの食いあいをはじめているのである。この闘いのゆくえはまだわからないが、すでに懸念はある。ローカルビジネスの第一人者である社会起業家・木下斉氏は、チェーンのコーヒーショップの開店について次のように述べている。

「例えば地域にチェーンのコーヒーショップが開店したとします。その利益は地域からよその本社に行くため、地域経済にとっては持ち出しになります。そこに並ぶ商品のほとんどは地元で生産されておらず、スタッフはパートタイマーばかりで、営業利益は地域外に流出していきます。メリットは、せいぜい地元で数人の従業員が雇用されるぐらいです」 (『稼ぐまちが地方を変える』NHK出版、2015年)

つまり、地域の外に本社にかまえる「グローバルの虎」は、地域経済を疲弊させてしまうということだ。木下氏のいうように、営業利益は地域内で循環させるのが望ましい。だが、「グローバルの虎」は徹底した利便性と革新性で顧客を惹きつけている。どこまでも合理的な「グローバルの虎」と闘うためには、利便性と革新性で上回るか、あるいはまったく違うやり方で顧客とつながらなければならない。そうしたビジョンや戦略を「ヤンキーの虎」が持てるかどうか、それがこれからの地方経済のゆくえを決めるだろう。

小船井健一郎(こぶない・けんいちろう)
編集者
1980年、北海道生まれ。多摩美術大学卒業。筑摩書房編集長を経て、事業とフリーランス編集者の二足のわらじを履く。編集した書籍に『お金で世界が見えてくる!』(著・池上彰 /ちくま新書)、『ふるさとを元気にする仕事』(著・山崎亮/ちくまプリマー新書)、『「豊かな地域」はどこがちがうのか』(著・根本裕二)、『ひらく美術』(著・北川フラム/共にちくま新書)など。
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