イノベーティブな店は「一度行けば十分?」

当然、日本も例外ではありません。「イノベーティブ」とか「フュージョン」と呼ばれるような料理を提供するレストランが次々に登場しています。そうした店が多くのファンをつかんでいるのは事実ですが、少し気がかりなのは、私の知り合いの中には「おいしかったし、面白いとは思うんだけれど、一度行けば十分かな」という声が少なくないことです。かく言う私も、そういう体験を何度かしている一人です。

「イノベーティブ」なレストランの多くは、一人あたり2万~3万円、場合によっては5万円以上の支払額が発生するような高級店なので、シビアな批評にさらされるのは間違いありません。それにしても多くの知人が「悪くはないんだけどねぇ……」と、どこか腑に落ちないような、歯切れの悪いコメントを残しています。

メインディッシュに「和牛」「大間のマグロ」

それはなぜなのでしょうか。自身も「イノベーティブ」に分類されがちな、東京のレストランのオーナーシェフが、こんな話をしてくれました。

「イノベーティブなレストランって、結局、何を食べたかよくわからないことが多いんですよ。先日もアジアのランキング上位のレストランに行ったんです。もちろんおいしかったんですけど、品数が多かったせいもあり、料理を覚えているのって、たった2つか3つくらいしかないんです」

日本のレストランには当てはまらないのですが、さらに興味深かったのはもう1つの指摘です。「僕は店を休んでしょっちゅう世界のレストランを食べ歩くんです。でも、どこに行ってもメインディッシュのような位置づけで、『和牛』と『大間のマグロ』を出してくるんです。もちろん向こうは良かれと思ってやっているんでしょうけど、日本人の僕にとっては、本当にがっかりですよ。その土地の料理が食べたくてわざわざ行っているのに、なんで和牛を食べなきゃいけないんだ、という感じですよね」