アマゾン・エコーがIoT時代のプラットフォームになる理由
電子デバイスを搭載したIoT家電が増えるなかで、スマホ各社はスマホをIoT時代のプラットフォームにしようと腐心してきた。もっとも、その努力は、これまで徒労に終わってきた。これに対して、筆者が「アマゾン・エコーはIoT時代のプラットフォームになる」と予測する理由は、消費者の本能的なニーズをとらえた商品だからだ。
これまでのスマホでは、家庭にIoT家電が置かれていたとしても、家庭のなかでスマホを持ち歩き、さらにはスマホでIoT家電を操作しようと思う消費者は少なかった。なぜなら、操作自体が面倒だからだ。これに対してアマゾン・エコーは「ただ話しかけるだけ」で操作が完了する。アマゾン・エコーはキッチンに置かれることが多いという。料理で両手がふさがっているときに、「ただ話しかけるだけ」で操作できることの利便性は大きい。
筆者は、AIやIoT時代におけるイノベーションとは、人間の本能的な動きや欲望を忠実に製品化しようとする試みではないかと考えている。このような意味においても、家の中での最も一般的なコミュニケーション方法である「ただ話しかけるだけ」という簡便な操作性は消費者の本能的なニーズに合致したものであると考えられる。
出張時には、「アマゾン・エコーは自宅での会話を一体どこまで聞いているのか?」ということを指摘する米国人の声を多く耳にした。アマゾンがアマゾン・エコーから吸い上げた音声データを、どこまでどのようにビジネスに活用しているのかは、多くの利用者の気になるところのようだ。「近未来のスパイ映画のシーンが、すでに自宅で再現されているのがアマゾン・エコー」という発言もあった。ただ話しかけるだけという簡便性ともあわせて、アマゾン・エコーが普段の生活を大きく変えてしまう可能性を感じているのだと思った。
筆者は現在、アマゾンの別の取り組みにも注目している。それは無人コンビニエンス・ストアである「Amazon Go(アマゾン・ゴー)」である。アマゾン・ゴーの店内には、どこにもレジがない。代わりにあるのは自動改札機によるゲートである。客は入店時にゲートでスマホをかざす。その後は欲しい商品を手に取るだけでアプリ上のカートに記録され、店舗を出るだけで決済が自動で終了する。このためレジで行列する必要はない。
アマゾン・ゴーには最新のカメラやマイクが具備されている。もっとも、ここで見逃せないのは、この無人店舗には、クラウドコンピューティング、音声認識システム、AI、ロジスティックのノウハウなど、これまでアマゾンがさまざまな事業で蓄積してきた知見が結集されていることである。
アマゾン・ゴーの店舗展開については、Wall Street JournalやBusiness Insiderが2000店舗規模の展開を計画していると報じている。アマゾンはこの報道を正式に否定しているが、米国では、同社がリアル店舗の展開を本格化していくうえで、アマゾン・ゴーがきっかけになるのではないかとみる向きが多い。なかには「他の小売会社に店舗システムを販売していくのではないか」という声も聞かれた。小売業界では脅威として受け止められているようだ。