「丸写し」が評価されないわけ
どんな内容をノートするのか。この問いには、さまざまな回答が寄せられた。
「エグゼクティブ層の方々はみなさん、人と会って聞き慣れない言葉や心に残ったキーワードが出てきたら、短く書き留めることが習慣になっていると感じます。共通していえるのは、目的意識が強いということです。面談やセミナー参加の時間も極論すればコストなので、それに見合ったリターンを求めるのです。直接ビジネスにつながらなくても、新しい知識を得ることはリターンの一種ですから、私と接していても、知らない情報があると『いま、なんていいました?』と聞き返してメモを取る方が多い」(増渕氏)
メモの中身は、相手から引き出した一次情報だけとは限らない。その先の「行動」につながる一言二言を書き加える人が多いのだ。
意識調査(Q4)の回答では「相手の話を聞いていて、自分が思いついた戦略や次の行動」「持ち帰って調べるべき事項、次回の約束・宿題など」「打ち合わせに伴うTO DOリスト」というあたりが典型的だ。
増渕氏はさらに、「経験上、キーワードの横に人の名前を書く方も多い」と指摘する。「この件については、あとでこの人に聞くこと」というほどの意味だが、アイデアは人と結びつくことで一気に具体化することが珍しくない。これもまた、行動に直結する習慣なのだ。
一方、優秀とされるビジネスパーソンのなかには、発表内容や相手の発言を逐一ノートに書き付ける人も少なくない。ただ、このタイプは「エグゼクティブ層にはほとんどいない」というのが、増渕氏の実感だ。
森本氏も「すべての内容を真面目にノートしている人が抜群のアウトプットを出すとは限りません」と指摘する。
「ノートのまとめ方は、その人の思考回路そのものです。自分なりの論理で要約したり、フレーム化することもなく、『聞いたまま』を雑然と記すだけではビジネススキルを疑われます。見返したときに、短時間で要点を理解できるのだろうかと心配になるくらいです」(森本氏)
今回の特集で取材した上場企業経営者も「黒板を丸写しするタイプは、現在のビジネス環境を生き抜いていけない」と断言する。重要なのはあくまでも、情報を得たうえで「どう行動するか」。行動が求められているのに、一次情報の収集・整理で時間と労力を費やしてしまっては本末転倒だというのである。
同じ理由から、3色ボールペンなどを駆使して、情報の分類に励むのも労力の無駄といえそうだ(Q5)。
「2色や3色のペンを使うと答えた方もいますが、細かく使い分けているわけではないと思います。私自身、エグゼクティブ層でそういう方にお目にかかったことはありません(以下参照)」(増渕氏)